僕の転機
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■ 第2章 救いの手7

「そうそう、歩美さん。君は今、父親に証拠を握りつぶして貰うような事を言ってたね?」
 宗介の言葉に、フンと鼻を鳴らし歩美が答える。
「そうよ、お父様ならそれぐらいの事、軽くこなせるわよ」
 歩美がうそぶくと、宗介は少し困ったような顔で、
「う〜ん、一昨日までの君の父親なら出来たかも知れないが、今は無理だろう…。だって、君のお父さんの会社、乗っ取られそうなんだろ?」
 歩美に告げる。
 宗介の言葉に驚きを隠せない歩美。
「どうしてそんな事を…。まだ、何処にも公表はされてないはずよ…」
 歩美が呟くと、宗介は時計を確認しテレビを点けた。
 テレビ画面では、ニュースが流れていて、歩美の父の会社グループが、ヨーロッパを拠点とする資本グループにTOBを掛けられ、既に持ち株の40%を所持された事を、CEO代理が記者会見を開き公表したと告げている。
 画面はアナウンサーに変わり、その会社のCEOはヨーロッパでは珍しい日本人で、名前を久能宗介と告げ、中々姿を見せない事で有名だ等と語っている。

 プツリとテレビを切り歩美達に向き直り、ねっと言うような表情を作る宗介。
 後ろにいた昌聖と美咲が口を開け、固まって何かを呟いている。
「解った?これで俺が何で企業買収の事を知っていたか…」
 歩美は全然理解出来ないと言うような表情で、宗介を睨み付け
「だから?何が言いたいの貴男は…ニュースで知ったって言うの?」
 そんな歩美を無視して、昌聖が宗介に話しかける。
「ヨーロッパで仕事をしているって…。宗介さんが…CEO?本当なの?…」
「そう、その通り。就任したのは6ヶ月前だけどね…。今回の山田グループ買収の総指揮を執っている」
 宗介の言葉に、唖然とした表情で全てが繋がった歩美。
「君のお父さん、かなり犯罪にも手を染めてるね。親子で警察のご厄介になったら、立ち直れないだろうな」
 宗介が嬲るように、歩美に話しかける。
「そう、君のお父さんの犯罪で落とされた、会社のイメージに対する損害賠償請求もしなきゃ成らない…。何十億になるかな?」
 宗介が歩美の前にしゃがみ込み、顔を覗き込みながら言う。
「馬鹿な事…そんな事止めて!お父様には関係ないでしょ…」
 力なく項垂れて歩美が言うと、宗介が歩美の顔を上げさせて
「そう、ここからが契約だ。君は、私に自分達の不正を暴いて欲しくないと言う、依頼が有るわけだ。私の方は、君に望んで罰を受けて貰う、と言う依頼が有る。この利害の一致が、契約を結ぶ基本なんだが…君はどうする?」
 宗介がビジネスマンの商談のような口調で歩美に問うた。

 歩美は、為す術もなく、首を縦に振った。
「ちくしょう!私にだって持ってる力は有るんだ!私が連絡したら。危ない奴らが、100人は集まるんだよ!」
 美由紀が、暴れながら宗介に怒鳴る。
「嘘を付くな精々30人程のチームだろ、そっちも手は打ってある。電話してごらん」
 宗介がそう言うと、美由紀のポケットの中から携帯を取りだし、美由紀の見ている前で相手を確認し、コールする。
『この番号は、お客様のご都合により、お繋ぎする事が出来ません』
 機械的な女性の声で、着信拒否のアナウンスが流れる。

 狐に摘まれたような表情の美由紀に、くっくっと笑いをかみ殺しながら
「着信拒否されたみたいだね」
 宗介が美由紀の耳元に囁いた。
「じゃぁ、私の携帯で掛けてみようか」
 そう言うとポケットから自分の携帯を出し、美由紀の言う番号に掛ける。
『ザッス、先程は失礼しましたっす。言われた事は、全部、達して実行しました。今度はどんなご用件すか?』
「うん、さっきの女の子が状況が掴めないらしくてね。君の口から説明して貰えるかな?」
『お安い御用っす。じゃぁ、ちょっと代わって貰えますか?』
 電話の相手が、そう言うと、宗介は美由紀の耳元に携帯を持って行き、目で[どうぞ]と合図する。
「あの、啓介さんですか?私です美由紀です…」
 そう言うと電話の相手は、さっきと違った口調でしゃべり出す。
『おう、美由紀よ〜っ、お前どんな、おっかない人連れてくるんだ!俺ぁ〜10年は寿命が縮んだぞ!まぁ良いわ、お前との縁はこれっきりだ、二度と俺達のテリトリーに来んじゃねえぞ!お前の連れてきた女も全員解放したし、この先ノータッチだ。それと、お前を見かけたら何しても構わないってお達しも、都内のチーム中に流れてるから、精々気を付けろよじゃあな。…代われよ!』
 一方的に話をされ、携帯を代わるよう指示された美由紀は、宗介に呆然としながら携帯を戻す。
「うん有り難う、彼女も良く解ったみたいだ」
 そう言うと携帯を切り、美由紀に向かい合い宗介が話し出す。
「自分の置かれた立場が良く解ったかな?此処で契約だ」
 宗介は、呆然とする美由紀に、ユックリと問いかけだした。
「君はこれから犯罪者として警察に突き出され、自分が売春を強要した女の子達と、自分を守っていた人達の両方から狙われ、生きていく方が良い?」
 ビクッと一つ大きく震えると、嫌々をするように首を振る美由紀。
「それとも、自分から望んで私達の決めたルールの中で、罰を受ける方が良い?どちらを選ぶかは、君次第だよ」
 少し考え、俯くと[解ったわよ]と小さく承認した。

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