僕の転機
MIN:作
■ 第12章 落胆4
ディディェの指示通り、昌聖が言葉を掛ける。
「歩美。ゆっくり目覚めなさい」
昌聖の言葉に従って、歩美が目を開ける。
目を開けた歩美の表情は、険が取れ、穏やかな物を漂わせていた。
宗介の顔を見て、軽く会釈をし、視線を池谷に合わせ、モニターを見る。
無言で頭を下げると、昌聖に目を合わせる。
一瞬、瞳の色が濃くなり、目を伏せる。
振り返り父親を見、姉を見る。
その歩美の瞳に、涙が溢れ出す。
ソファーから立ち上がり、父親に抱きつき嗚咽する歩美。
ひとしきり泣いた後、真由美の傍に這い寄り、微笑む姉を抱き締める。
宗介は、そんな歩美に近づき、
「山田歩美…。君は、俺達の組織に対して著しい損害を与えた。これから生涯を掛けて、その行為の罰を受けなければならない…」
静かにしかし、明確に告げた。
歩美は、コクンと頷き、
「はい、解りました…」
消え入りそうな声で、宗介に答える。
「君は、俺達の組織にその身柄を拘束され、全ての権限を剥奪される…」
宗介の言葉は、冷たい雨のように歩美の身体に降り注ぐ。
身体を震わせ、嗚咽を強める歩美。
精神の枷を取り払われ、罪を受け入れる、歩美は何処か儚げだった。
「今は、君の家族との別れを惜しむが良い。君の処分が決まり次第、俺達が迎えに行く…」
歩美は[ハイ]と頷き、姉を抱き締め、父親に挨拶し、昌聖の前に跪く。
「申し訳ありませんでした。あんな酷い事をしていた、私を救って頂いたのに、何のお返しも出来ない私を、お許し下さい…」
そう言うと、深々と頭を下げ、昌聖の足に口づけした。
「うん、良いよ歩美…。君は、多分心の中で本当の自分と、ねじ曲げられた自分の間で、辛い戦いをしてたんだね…。だから、もう良いよ…」
昌聖の言葉に、涙を流し[すいません]と詫びる歩美。
昌聖の心の中は、不思議と復讐心とか恨み辛みとかが、消えていた。
沈鬱に沈む雰囲気の中、モニターのディディェが日本語で口を挟む。
「宗介? 意地悪は良くないわよ。権限、貴男持ってるでしょ」
ディディェの言葉に驚く全員。
「ディディェ!」
パソコンのモニターを振り返る宗介。
しかし、パソコンのモニターは既にアクセスが切られ、ブラックアウトしていた。
(置きみやげして行きやがったな! あの野郎!)
昌聖が、宗介の反応を見て全てに気付く。
「宗介さん…。楽しい? もっとさぁ、人の心持った方が良いよ…」
昌聖が本気で怒りを顕わにしている。
「待て! 俺もそんな積もりじゃない…。でも、これには訳が有るんだって…。全く、あのオカマめ…」
宗介が悪態を付く。
「オカマなんかどうでも…。オカマ?」
昌聖のキーが一つ上がる。
「ああ、気付かなかったろうが、ディディェは男だ…。ぶち壊しやがって…」
宗介が、ガシガシと頭を掻きながら
「俺が言わなかったのは、お前の問題があるからだ…」
昌聖を指さし、宗介が話し出す。
「今のお前は、ハッキリ言って部外者だ! 歩美は俺達の組織預かりだから、お前に託す訳にはいかない…解るな?」
宗介がソファーに移動しながら、話を続ける。
「じゃぁ、歩美のバランスを取れるお前に、どうすれば歩美を預ける事が出来る?」
宗介の質問に、少し考え
「僕が組織の一員になる?」
自信なさげに、答える。
「そう、その為には有る条件を、クリアーしなきゃ成らない。その条件が…厄介なんだよな」
宗介が、頭を抱えて話す。
「池谷、お前が加入条件を言ってやれ…」
宗介が池谷に話を振る。
「加入条件ですか? 一つ、幹部の推薦がある事。一つ、組織の活動内容を理解している事。一つ、組織を裏切らない事だったと思いますが?」
池谷が答える。
「じゃぁ、加入を認められない場合の条件は…」
宗介が聞くと、池谷は[あっ]と気づき、宗介と同じように頭を抱える。
「確かに。昌聖さんは、無理かも知れない…」
池谷が呟く。
全く話が分からなくなった、昌聖が
「いい加減、2人で納得するの止めて貰えない?」
苛々して、2人に食って掛かる。
「昌聖。ネックは、お前の親父さんだ。幹部の不承認が有った場合、加入できないんだ」
宗介の話にうんうんと頷く池谷。
「結局、お前が親父さんを説得するしかない。すると、歩美はお前の所有物に成る」
宗介が、歩美を自分の前に立たせ、両肩を後ろから支え差し出す。
歩美は、話の途中経過は理解できなかったが、最後の所有物に成ると言う所だけ理解した。
「あの…それは…本当ですか?」
歩美は、モジモジとしながら、上目遣いに昌聖を見る。
赤い顔をして、身体を揺らす歩美は、今までに見た事がないぐらい、可愛らしかった。
「それって、そんなに大事な事なの? ふう…、歩美。僕に所有者に成って欲しい?」
昌聖が歩美に聞き返した。
「はい、お願いします!」
思いもよらぬ程、ハッキリした声で返事を返す。
「解りました! やるよ! やります! 説得しますよ」
半分やけくそで、答える昌聖。
◇◇◇◇◇
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