ボクの中のワタシ
羽佐間 修:作
■ 第4章 翻弄15
―いたぶり―
「ふぁ〜〜、ふぁっ、ふぁっ、ふぁっ、、、 ねむっ」
竜之介は欠伸を噛み殺し、エレベーターに乗った。
――週の初めからこれじゃキツイよなあ、、、 それに週末は、、、
明け方近くまでエネマグラの妖しい快感に竜之介は翻弄されてしまった。
前立腺が奏でる終わりのない快楽地獄からしばらく離れようとチェストの奥深くに”禁断の淫具”を仕舞い込んでいたのだが、脳裏に浮かぶ明菜との屋上での出来事を思い出すだけで身体の底から湧き上がる切ない疼きには抗しきれなかった。
喰い締めるたびにア×ルで踊るエネマグラは、淫らな妄想を誘い、乳首を抓るのが富岡刑事の手に変わり、凌辱者達は次々と”みちる”のア×ルを貫く。
そしてその淫夢は、5日後には”みちる”に再び現実になると思うと、息もできないくらいの快感に竜之介は包まれて喘ぎ泣いたのだった。
◆
「おはよっ」
エレベーターを降り、オフィスへ向かって廊下を歩いていると女性の声が聞こえた。
――誰?! あっ、、、 明菜か、、、
振り返ると明菜が給湯室から顔を出して笑っている。
「なっ、なに?」
「いいからっ! こっち来て」
手招きしながら明菜は給湯室の中に消えた。
――また何かされる、、、
週末の屋上での事を思うと、心臓が早鐘を打つ。
しかたなく給湯室へ入ると、薄暗い部屋の奥に明菜は居た。
「おはよ、みちるちゃん。 橋本さんに聞いたわ。 み・ち・る・ちゃんって名乗ってるんですってね〜」
近づくと明菜はいきなり竜之介の胸をむんずとつかんだ。
「あっ、、、 やめてっ、、、」
「今日はどんな下着をつけてるの?」
「…………」
「見せなさいよ」
「こっ、こんなところでは許してっ」
「みちるちゃんの声で喋って!」
「あぁぁぁ、、、 許して、、、明菜、、、」
「うふふっ。 自由自在ねえ! 見事なものだわ。 感心しちゃう。 私の知らないところで随分練習したんでしょうねえ、みちるちゃん」
「、、、うん」
「さあ! 早く見せなさいよ!」
誰が通るか分からない廊下の一角にある給湯室でいつまでも揉めているわけにはいかない。
「ああぁぁぁ、、、」
竜之介は廊下側に背を向けるように位置を変え、シャツのボタンをはずしていく。
明菜は嬉しそうにシャツの胸ぐりを大きく開いた。
「あら?! なぁ〜に、これ、、、 随分地味じゃない、みちるちゃん。 上着に響かないようにベージュを選んだのね。 うふふっ」
「もっ、もういいでしょ?!」
始業前のこの時間ならいつお茶やコーヒーの準備に人が来るかわからないので気が気でない。
竜之介はシャツの胸元をを掻き合わせた。
「ふふっ。 ヘンタイ君でも恥ずかしい〜んだ?! アンタにお似合いの下着を買ってあげるわ」
「えっ!? いっ、いいよ、そんなの、、、」
「あらっ、遠慮しないで。 そんなダサイ下着なんてみちるちゃんに似合わないもの。 プレゼントしてあげるわ。 いいわね!?」
「、、、うん」
「じゃあ、楽しみに待ってるのよ」
竜之介を残し、明菜は給湯室を出ていった。
◆
「開発室の備品管理は速水さんが担当でしたね」
「あっ?! う、うん、、、」
昼食を終え仕事を再開した直後、不意に背後から明菜に声をかけられ、竜之介はビクッと身体が震えた。
付き合っている頃は、総務の仕事で明菜が開発室に来るのが楽しみだったのだが、別れた後はなんとも気まずい思いがしていた。 まして週末に恥ずかしい姿を見られた上に今朝の事があった今は尚更だ。
「これ、在庫のチェックシートです。 今日の3時までに作成してくださいね。 頂きに来ますから」
竜之介のデスクにクリップボードを置いた。
「うん。 わかった、、、」
「それと、、、 これ。 お昼休みに買ってきてあげたわ」
明菜は小声で囁きながら赤いリボンで飾られた緑の小箱を差し出した。
「えっ、、、」
「3時に見てあげるから着替えておくのよ。 いいわね?!」
「む、無理だよ、、、」
「そんなこと言っていいの?!」
「、、、わかった。 わかったから、、、」
「絶対よ!」
明菜はそう言い終えると他のスタッフのデスクへ向かい、何やら打ち合せを始めた。
竜之介は職場に不似合いなオシャレな小箱を引き出しの中に仕舞う。
――ホントに買ってきた、、、 あんな軽くて小さな箱に入る下着って、、、
竜之介はストリッパーが身に着ける様な煽情的なステージ衣装を思い浮かべてしまった。
「ふぅ〜〜」
思わずため息を洩らすと、食事を終えて開発室へ戻ったばかりの橋本と目が合った。
「何だよ、ため息ついて。 竜之介、疲れてんのか〜?!」
明菜が居ることに気付いた橋本がこれみよがしに言葉を続ける。
「まあ、社内恋愛は付き合ってる時も、別れた後も何かと大変なもんだ。 なあ、竜之介」
「はっ、はい、、、 あっ、いいえ、、、」
――これ以上明菜を刺激しないで、、、
恐る恐る明菜に視線を向けると、同僚と話しこんでいるようで橋本の声は聞こえなかったように見えた。
◆
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