皮膚の壁
一月二十日:作

■ 20

「行けよ。」
「何でそんなこと言うの?」
「僕は真美を束縛する権利を持ってないからだよ。」
「家庭?」
「仕方ないさ。」
「こいつの所へ行ってもいいわけ?」
「仕方ないさ。」

言いながら嫉妬する自分がじれったく、そのじれったさの捌け口に…

「とにかく行こう。」
そう言ってホテルに車を走らせていた。
もうこの時分には真美のチーズの匂いさえ正直いとおしかった。

真美はいきなり抱き付いて来る。
「んもー…」
真美の爪が立つ。
私はただ宙を仰ぐ。
嫉妬の渦巻く宙…
「ねぇなんで信じられないの? 私は中野さんが好き。これは事実なのに。」
「ダメなんだ、歳の違いはどうしても遊ばれている様にしか思えない。」
「女が身体を許すってどういうことか分かってんの?」
真美は怒った様に脱ぎだした。
会社帰りのスーツ、スカート、ブラウス、ブラ、ストッキング、パンティー…
「これで飾ったもの全部取った。これ以上脱げないわ。」
私は真美の目を見ていた。
怒った様な目。
「じゃ、これならどうよ。」
真美は股を開いた。
その勢いで恥毛の間からビラビラの一部が覗いた。

「こういう恥ずかしい姿を見せてるんだ。」
目の前で若い娘が全裸で仁王立ちになっている。それもこれもすべてこの私のためにだ。
しかし私はなぜか満足出来ない。安心出来ない。
皮膚の全てを見たところで心まで見えはしない。
「これ以上どうすればいいっていうのよ!」
真美が駆け寄る。そして私の胸を叩く。唇をむさぼって来る。荒い息が鼻に掛かる。全裸の娘が私の衣服の上で恥ずかしく踊っている様だ。
興奮したのかあの香りが漂う。
まるで穴の開いた蒸気機関車の様にバフバフバフと熱に混ざってあの香りが吹き出している。

「じゃ…」
私は思い切って言った。
「じゃ?」
真美は挑む様に言う。
「もっと裸にする。」
私も挑む。
「これ以上の裸があるの?」
真美が一瞬ひるむ。
真美の薄いヘアが一瞬目に入った。
「ある。」
真美の毛という毛が頭に浮かぶ。

鞄の中に毛抜きがある。
これはいつだったか私が何かに取り付かれた様に購入したもの。
それを取り出して真美の前に立った。そして命令した。
「床に寝ろ。」
「え?」
「そこの寝ろ。」
「何すんの?」
真美は私の右手に光る銀色の物体に怯んだ。
「何?」
私は意地悪く聞いた。
「それで何すんのよ?!」
裸の真美が後ずさりする。

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