光梨の奇妙な日常
煙突掃除屋さん:作

■ PM12:45 体育館2

「5時間目どうしよっかな…」

 このまま教室に帰るわけには行かない。身体中に喜多川の精液の匂いが染み付いているような気がする。いくら何でも誰かに気付かれてしまうだろう。どこかで口を濯いでから戻ろう……どこがいいかな……?急いで戻る気はあるのだが、光梨の身体はなかなかそこから立ち上がろうとしなかった。

「ふぅ……」

 口の中に残る喜多川の匂いを無意識に反芻しながら小窓のガラスに顔を映してみる。紅潮した頬はまだ余韻を残している。喜多川との行為と青臭い樹液の匂いに煽られて光梨は興奮を抑えられなかった。いっそのこと最後まで…という思いが頭をかすめた程だ。

「ダメだよね……駿ちゃん待ってるもんね…」

 光梨は誰に言うでもなく呟くと、覚束ない足取りで立ち上がった。朝からずっと駿介との逢瀬を期待していた上に、喜多川への奉仕でスイッチの入ってしまった光梨のショーツは既に蜜を含んだように温かく、重くなっていた。光梨は少々気色の悪さを覚えながらゆっくりと体育館の階段を降る。

 体育館の横には運動部のクラブハウスが軒を連ねている。放課後ともなれば沢山の生徒達が行き来するのだが、5時間目が始まったばかりのこの時間は誰もいない。部室の前に並ぶ手洗い場の蛇口を捻った光梨は火照った顔をザバザバッと洗った。

「……ぷうッ!」

 顔を左右に振って飛沫を飛ばすと空を仰ぐ光梨。

「…これも……いっか」

 光梨は辺りを注意深く見回すと、誰もいない事を充分に確かめてからショーツに手を掛けた。そのままスルリと膝まで下ろした所で手が止まる。

「う……わ」

 光梨の太腿でクルクルと丸まっているショーツの中心の部分から、光梨の中心に向かって透明な糸が伸びていた。よく見るとショーツの布地の部分にも染みが広がっている。光梨は再び顔を紅潮させて手早くショーツをポケットに仕舞いこみ、スカートの裾を押さえた。

「ちょっと大胆過ぎるよね。やっぱり。」

 近頃の制服はデザイン重視のものが多い。光梨の学校の制服もご多分に漏れず短いスカートが採用されている。普段はそれほど気にもならないのだが、スカートの下から肌が覗いて下着を着けていない事がバレては大変な事になる。

「仕方ない… 部活までサボっちゃうか!」

 部活の時間になればショートパンツに着替えられる。やはり中には何も着けないのだが、スカートよりは大分ましだろう。水道の蛇口を閉めた光梨は陸上部の部室に向かって歩き出した。鍵は持っていないが、窓がいつも開けてあるのは知っている。皆、授業中にサボりにくるのだ。

『藤森! 藤森〜っ!!』

 部室に向かって歩き出した光梨を呼ぶ者がいた。体育館に併設された体育教官室の窓から陸上部の顧問・宇藤恭子が手を振っている。

『ちょっと! 藤森! こっちに来なさい!!』

 何だか少し興奮しているようだ。少し不安を覚えながら光梨は教官室へと近づいていく。

「何ですか? 先生?」

「あんたちょっとコレ見なさい。」

 恭子が左手に持ったファイルを見て光梨は少し動揺した。表紙には『遅刻者リスト』と書かれている。今朝、喜多川が持っていたものだ。

「それが…どうかしたんですか?」

 動揺を見せまいと出来るだけ平静を装う光梨。

「今朝の遅刻なんだけどね…ココ見なさい。アンタの名前が書かれて消された跡があるでしょ?」

 光梨は蒼褪めた。喜多川君がもっと上手に処理してくれると思っていたのに…。

「あ…あの… それは…」

 何とか言い訳をしようと頭脳をフル回転させる光梨に恭子の容赦ない言葉が襲い掛かる。

「藤森…アンタ昼休みに体育館の2階にいたね? 喜多川と一緒だったのを窓から見かけたんだ。」

「……(あっちゃ〜〜)」

「まさかとは思うけど揉み消しと引き換えに喜多川とヤッちゃったんじゃないだろうね?」

「そ…そんな…! 口でしてあげただけです!」

 しまった!と思った時にはもう遅かった。火に油とはこの事だろうか?恭子の顔がみるみる紅潮していく。

「藤森〜〜!! 今日はスペシャルメニューだ! 覚悟しておきな!!」

 そう吐き捨てるように言うと思い切り窓を閉める。光梨は呆然とその場に立ち尽くしていた。

「……抜き損だよ〜〜…」

 およそ美少女には似合わない言葉を小さく呟いて光梨はその場にしゃがみ込んだ。

■つづき

■目次

■メニュー

■作者別


おすすめの100冊