人妻の事情
非現実:作

■ 人の妻として9

「ほぅほぅ、普通の格好をしてたらこんな場所に居るなんて不思議に思うくらいだねぇ〜。
本当に絵に描いたような、近所で評判の美人奥様だよ。」
「…… ……」
「だが、そのギャップがたまらんねぇ〜、奥さん〜〜」
「へ、変な事言わないで下さい」

着てきた服に身を包み直しても、あの田崎さんの歪んだ視線がネットリと絡み付いているようだった。
物凄く気持ち悪い。
早く家に帰ってシャワーを浴びたい気分だった。
そんな私の気分も知らずの田崎さんは言う。

「それじゃあ、一緒に行きましょうかねぇ」
「え、え……ぇ?」
「僕の愛人となってくれたんだから、その記念にプレゼントでもってねぇ?」
「……そ、そんなの……け、結構です」
「何言ってるの〜、愛人にフラれないようにする心配りはお金とプレゼントでしょぉが」
「いぇ、あの、私、ホント結構ですから……」
「愛人記念日として、僕からプレゼントしてあげるんだからもっと喜んでよ。
結構良いブランドとか揃えてる所知ってるからサ。」
「で……も」
「プレゼントだよプレゼント、嬉しいでしょぉ〜〜?。
折角なんだから貰っておいて損はないでしょ?。」

私は悩んだ……。
これを機に更なる要求(肉体関係)を求められるのではないかという不安に……。
それに私はブランド物が欲しかった訳ではない。
ただ毎日の生活が平凡過ぎて、ついつい衝動買いに走ってしまっただけなのだ。
煮え切らない私を見た田崎さんは付け加えたのだった。

「これはね、純粋に理紗ちゃんにプレゼントしたいだけなの。
別にこれで釣るとかそんな事考えてないから安心してよ。」
(私の考えてた事、バレたのかしら……)
「言ったでしょぉ〜僕は肉体関係に興味が無いってサ」
「…… ……」
「記念日、お互いの秘密の関係に何か贈らせてよ、ネ、ネネ?。
単純に僕の誠意を見せたいってだけだからさぁ。」

何か悪い気がしてきた。
これは邪な契約だが…… ……。
それでも田崎さんは純粋に私を想ってくれている……そう感じた。

「では…その、あの……記念日という事で1回だけ、そ、その……言葉に甘えさせて頂きます」
「そうだよ、そうこなくっちゃ〜〜、一生懸命見繕ってあげるからねっ!」

パンと激しく拍手を打って嬉しそうにいう田崎さんであった。

「あ、あの、言っておきますけど……その……」
「解ってる解ってる、理紗ちゃんはそんなお安い女じゃないって事はサ」
「そ、そうですか」
「僕も貴女も生活がある、深みに嵌った関係は持つつもりは毛頭ないから。
これは極めて秘密な一歩距離を置いた関係、それが僕達のベストってねぇ。」
「は、はい」

私はようやく田崎さんを信じる事が出来そうだった。
そして不思議と、この巡り会わせに感謝さえした。
悪い人に捕まらなくて良かった…… ……と。

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