人妻の事情
非現実:作

■ 人の妻として12

これより私は正式に人の道を踏み外す。
嫁入り道具として持ち込んだ三面鏡の化粧台に腰を下ろして、私ではないメイクを施していった。
○○○駅は私も殆ど立ち寄らない駅。
だが念には念を入れるメイクをしないと不安で一杯だった。
これから私は、夫ではない他人の男性とイケナイ事をするのだから……。
○○○駅で何をするのかは聞いてはいない。
だけどアノ田崎さんの事だ、良心的な事は考えられなかった。
普段の控え目とは違う濃い目のファンデーションと、何か特別な時にしか施さない薄赤のチーク。
更にマスカラを重ね塗りして睫を思い切り立たせて、瞼には派手めなラメを施した。
目尻には赤紫のシャドーを入れる。
ルージュはローズ色の控え目なラメ入り。
どれもこれもブランド物、私の衝動買いから得た物だった。
それを……まさか夫ではなく、田崎さんに見せるとは思ってもみなかった。
(あとは……下着?)
タンスの左3段目、清楚な下着の中に埋もれている悪意なる下着。
荒らされた形跡は全く無い。
私は恐る恐るその元凶を取り出したのだった。

ブラウスを脱いで何度か溜息をついた後、ようやくブラを外す事が出来た。
夫以外に触られた事の無いバストが三面鏡から映し出されている。
(……ごめんなさい、あなた……)
意を決して、田崎さんからプレゼントされたブラを手に取ってみた。
肩紐に腕を通して、ふと悩んだ。
普通のブラは後のホックをする前にカップを調整して、胸で支えてからセットするのだが……。
(胸の周りにこの紐みたいなのを通すの?)
全部が紐みたいな形態をしているこのブラの着け方が解らない。
カップの部分の紐を胸の周りに通してみたが胸が変形して締め付けられるように痛い。
焦る私は色々と悪戦苦闘してみるが、第一これがどういう風に着けれたら完成系かを知らなかった。
(駄目……解んない……)
時計に目を移すと、結構時間が押し迫ってきていた。
遅れたら何を言われるか解らない、その恐怖から私は今まで着けていたピンク色のノーマルを着けた。
時間は押している…… ……。
焦りながら次に、女の部分を一切隠してくれないショーツを手にする。
黒の総レース仕様のショーツは、強引に引っ張ると今にも破けそうな繊細な作りだった。
片足ずつショーツに足を通してゆく。
(ンぅ……あ、きつぅ!)
ギシギシと締め付ける両サイドの腰のラインと、下腹部を押し付けるようなレース生地。
(これ、ちょっとキツイ……)
その割りに大事な部分である局部とお尻の穴はスースーと風通しがよく…… ……。
ショーツの役目を果たしていないコレは、ただ下腹部を圧迫する物だけだった。
(ちょっと……これって…… ……)
更に三面鏡に映し出された物を見て絶句する。
総レースとは解っていたものの、黒のレース生地は殆どが薄く作られており、刺繍の合間合間に肌地が見え隠れしているのだった。
そして……局部と後に穴が開いているのは解っていたが、穿いた状態になると局部の穴はパックリと3cm以上完全に割れていたのだ。
何もしてなくても陰毛が見えてしまう。
(こ、こんな……のって!?)
殆ど下着としての意味を成していない、これは見て楽しむためだけの下着だと理解し、私は更に罪悪感を強めていった。

もう引き下がれない……。
私は感情を殺して「次の作業」に取り掛かった。
これも総レース仕様、真っ赤なガーターベルトを腰に付け、網目の大きなこれも真っ赤なストッキングを穿いた。
(私は……お金を稼ぎに働くの)
そう自分に言い聞かせながら淡々と「作業」をこなしてゆく。
ガーターベルトから垂れ下がる紐のクリップを網タイツに付けた。
「作業」完了…… ……。
(どぅ、似合う?)
夫にも見せた事の無い姿がここに居た。
いうなれば、そう……まるで娼婦。
ドギツイ化粧と卑猥な下着、まさに色気を振り撒き男を誘惑する女。
それが今の私。
私は今まで着ていたブラウスと、フレアスカートを着け直して時計を見た。
ギリギリ間に合う時間だった。
羞恥と裏切りの時間に……。

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