人妻の事情
非現実:作

■ 妻である私は8

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ピピピッピピピッピピピッピピッ!!

「ぅ…… ……え、えっぇ!?」

何かの夢を見ていて、それが余りにも心地よくて……不意に喧騒を発した物に軽く嫉妬する。
至福の時間を遮断したのは、携帯電話のアラームだった。
と、同時に慌てる私。
(いけないっ、寝ちゃってたんだ私……時間時間っ!!)
お買い物の時間だった。
愛する夫の為主婦たるは、美味しくて愛情の詰まった晩御飯を用意するのは当たり前。
だからいつも正午を過ぎる前に買い物へと行く事にしている。

(なぜなら? ……正午なら大抵の人はお昼御飯を済ませる時間でしょ?。
その間に、新鮮で美味しそうな食材をゲットするのが良妻っていうものじゃない?。)

誰に言う訳でもなく、私はほくそ笑みながら着替えを始める。
着替えながら……今日は何を作ろうと想像すると尚楽しくなってくる。
愛しの夫が笑顔で食べてくれるというそんな至福、これは妻たる幸せの1つなのだと思う。
(よしっと準備OK、ね)
私は家の鍵を掛けて颯爽と出かけるのだった。
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最寄り駅から電車に乗ると、弱冷房の車両が心地よかった。
歩いているだけでも熱く、若干体力が消耗していた。
今日はチョットだけ薄着なのだが、それでも容赦無いお天道様の日差しはきつかった。
空いている車内の椅子に腰を降ろして、ようやく安堵した。
私は女性専用車両というのが苦手だった。
あそこは女性が多いだけあり色々な香水や化粧の匂いが入り混じり、どうにも空気が悪いのか気持ち悪くなってしまう。
なので私は普通車両を好んでいる。
普通車両では営業さんと思しきサラリーマンの人達が、一時の自由時間に安らぎを求めて眠る光景がよく目に付く。
そしてハッと目覚めて、まだ目的地ではないと安堵して再び眠る。
(ふふっ、何だかカワイ)
そんな光景が好き。
でも中には眠った振りをして、わざとハッと起きたという表情で、最中にて見定めた女の人のスカートの中身を、一瞬でも見ようとする人もいる。
中には疲れていた女の人が無防備にも足を開いて眠ってしまっている状態を、馬鹿な男達が視姦しようと、下らないまでの徒労を狙っている訳だ。
勿論私はそんな見え透いた男の標的からガードするべく、両膝をキッチリと固くあわせている。
あまりの心地よさにチョット眠くなるけどここは我慢我慢。
目的のデパートまでは3駅。
(昨日はお肉だったから……今日はお魚にしようかな……あ、でも)
最近お疲れの夫に栄養のある物を食べさせてあげたい。
(ふふふっ)
そういう事を考えるだけで楽しくなってくる。
ようやく私の乗る電車が、目的の繁華街の駅へと到着した。

(うん、今日も奮発していいお肉、かおっ)

私は主婦。
愛しの夫の為、美味しい料理を作るのが幸せ。
この生活は薔薇色。
借金とか、そういうのは皆無。
何たって私は人妻よ?。
さっそうと私は長い髪を揺らしながらホームへと降り立つのであった。

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