人妻の事情
非現実:作

■ その時は妻であらず8

(ああぁ切ないわ……さ、触りたいっ、慰めたいのにっ!)
私も田崎さんも望んだこの貞操帯管理プレイ、後悔はしていないが、予想以上の辛さである。
呆ける時間も多くなり、主婦の仕事である家事も最近疎かになりがちだった。
私の変化を夫は殆ど察しないのはありがたい事であると同時に、背徳感で一杯になる。
夫と過ごす間も静まらない疼きをどうにか押さえつつ、歪んだ貞淑な妻を演じているのだ。
私はそう……もう駄目な妻なのである。
夫に対する背徳感を思う度、昼間の1人の時間は毎日こういう無駄な自慰を試みている日々だ。
胸を乱暴に揉んでいく内に、段々と私の感情も盛り上がってゆくのだが……下半身の鋼鉄の壁が恨めしい。
無駄だと解っていながらも、ついつい自慰を試みてしまう私は完全にエクスタシーに飢えている。
(駄目ぇ、こんなんじゃ足りなぃ〜〜っ)
満たす事が出来ない身体はより一層の快楽を求めているのに……。
そして今日も不完全燃焼のまま悶々と抱えながら衣服を正すのだった。

「ふっぅ…… ……」

ティッシュでフロントシールドに嵌められている網目状の自慰防止板を拭う。
ステンレス製の網目が淫靡な光沢で濡れている。
弄る事が出来ないくせにアソコからは愛液が溢れ出て、自慰防止板を汚すのである。
不完全燃焼の為かよく解らないが貞操帯を着けた暮らしになってから、どうも愛液の出方がやたらと多くなった気がする。
……それに、粘り気と臭気が酷い。
(後は、トイレのビデで洗浄……ね)
細過ぎる網目なので、どうしてもティッシュですら拭い切れないのである。
「錆びる事は無いけど手入れは入念に」と田崎さんも忠告していた事を、私は忠実に守っている。
最近では、もう当たり前の手順となっていた。
スカートを手に取り、もそもそとトイレへと行こうとした時だった。

ピンポーン……ピンポーン

「っ!?」

表情は凍り付き、一瞬なにが起こったのかやや長考してしまった。
初めての事態に私は動揺してしまっている。

ピンポーン……ピンポーン

一回押せば2度鳴る我が家の呼び鈴なのは間違い無い。

「そ、そんなっ!」

誰も居ないリビングでオロオロしながら呟く。
一瞬、居留守を使おうかと頭に過ぎったが、どうやらそうもいかない様である。
スカートを手に乱れたインナーのまま、玄関モニターを見ると宅配便の人だった。

ピンポーン……ピンポーーン……

取りあえず受話器を取り、対応するしかない。

「はっ、はいっぃ」
「ぁあ、宅配便で〜ッス!」
「はっぃ、ちょ…ちょっとお待ち下さいっ!!」

(ま…まずは、そ……そうっ服っ!)
もうビデで洗浄する時間などない。
仕方なく急いでスカートを穿き、乱れたセミロングの黒髪を手ですいてパタパタと玄関へと向かったのだった。

「ご、ゴメンナサイねお待たせしちゃってっ」
「いえ、大丈夫ッス!」

宅配会社の制服を着た、いかにも体力に自信がありそうな若い子だった。
結構な重さである筈の荷物を片手で持っていた。

「……あのっ?」
「ぇえ?」
「いや、その……判子をですね」
「っぁ、ヤダッごめんなさい」

私は急いでリビングへと戻る。
(やだ私ったら……何馬鹿みたいに見てたのよ……)
ガサガサと戸棚を漁りながら、自己嫌悪する。

「あっ、ゴメンナサイありました」
「では、ココにお願いしまっす」
「はい」

一通りの手続きが終わる。

「じゃあ……コレ重いので気を付けて下さい」
「は〜〜い、どうも〜〜」

先ほどの事も忘れ、私は笑顔で言う。
なんだか好感持てる良い感じの青年だった。

「……ソレと、あの……スカート逆ッスよ?」
「…… …… ……」

キョトンとして私は下を見た。
そして見る見るうちに顔が硬直しだすのが解った……。
スリットの方が前になっているのである。

「奥さん……お楽しみだったんスね〜」
「……ぁ、ぃやだっ!」
「よくシャワー浴びたほうが良いッスよ、臭いがキツイんで」
「……ひっぃ!!」
「じゃあ〜〜今後とも御贔屓に〜〜どうもシタッ〜」

帽子を取り、ペコリと挨拶をした後の向き直った青年の表情はニヤついている。
咄嗟に私は玄関の扉を閉めていた。
そして壁を背にズルスルと崩れ、尻餅を付いた。
…… ……恥ずかしいという気持ちをとうに超えている。
迂闊だった。
相当焦っていたのだろう、姿見でチェックすらせずに人前に出てしまったのだ。
それも……自慰をしていた直後だというのに。

だというのに…… ……

私の姿を青年はイヤラシイ目付きで、そして言葉が身体中を刺激していた。
(…… はぁ…あぁぁ…ぁぁンぅ)
夫でもない田崎さんでもない……初めて赤の他人に見られたというこの大事件。
ドクンドクンと心臓が高鳴りしている。
(もっぅ何っよっぅ……)
ジワリと再び内股が濡れてきていた……。
(だめぇ〜もぅ……)
宅配の青年に視姦された。
そのシュチュエーションが、露出プレイの一環に思えてきてしまう私。
身体と心に再び火が灯った…… ……
私は体制を立て直して、自身のPCの前にへたり込むのだった。
目は血走っているのだろう……マウスは最速で目的のサイトへと動く。
片手は、スカートを捲り上げていた。
もうそろそろ演じきるのが難しくなってきている程に私は溺れ始めているのだろうか。
貞淑な妻という仮面が剥がれ落ちた。

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