保健室の闇
〜女子生徒の告白〜
ドロップアウター:作

■ エピローグ

 再検査の結果が通知されたのは五日後のことでした。
 最悪なことに、私はまたしても、「異常あり」との通告を受けてしまったのです。
 その翌日、私は父と一緒に病院へ行き、精密検査を受けました。その結果、私は急性腎不全と診断されたのです。
 お医者さんは、命に別状はないけれど、集中的な治療を行いたいから、五日間ほど入院して欲しいと私に言いました。私は怖くて嫌だったのですが、父に説得され、その日からしばらく入院生活を送ることになったのです。
 ところが、入院したことで私は思わぬ情報を手に入れることになったのです。

 入院生活三日目の朝、私は検温に来た看護婦さんに、「他の人には内緒にして」との条件で、学校で受けた再検査のことを打ち明けました。
 看護婦さんは少しびっくりした顔をしたのですが、意外にも「全くありえない話ではない」と答えたのです。看護婦さんは、私が受けた尿検査のことを「導尿」と呼ぶことを教えてくれた上で、大学の付属学校では、普通の尿検査の代わりに導尿を実施していたことも過去にあったのだそうです。ただ、全裸にされたことに関しては、「どう考えてもやり過ぎ」と言って、「とんだ災難だったわね」と同情してくれました。
 これで大方の疑問は晴れたのですが、一つだけまだ分からないことがありました。それは、川原先生と女医さんが、なぜあんな大それたことをしたのか、ということです。男が女に、という話はよくあります。女同士でも、イジメとかなら分かります。でも、私と二人は立場も違うし、普段の生活ではほとんど接点がありません。しかも、被害に遭ったのは私だけでなく、再検査を受けに来た不特定多数の女子生徒なのです。私は、どうしても納得することができませんでした。
 ところが、私が退院して学校に戻ると、川原先生が保健室からいなくなっていました。噂では、校長室に辞表が置かれていて、保健室に置いてあった先生の荷物が消え去っていたということでした。なので、私の疑問は永遠に謎のままになるかと思われたのです。

 ところがその半年後、私は新聞で衝撃的な事実を知ることになったのです。
 それは、二人の中年女性の心中事件を報じる記事でした。亡くなった二人の女性の顔写真を見て、私は驚きました。それは紛れもなく、あの女医さんと、川原先生のものだったのです。
 記事には、川原先生の部屋から遺書が見つかったという話が掲載されていました。それによると、彼女は高校生の頃、男性から性的暴行を受けたことがトラウマとなり、男性不信に陥って悩んでいたそうです。そしてさらに、学校に勤めていた頃、当時の自分と同じ年恰好の少女達の姿を見ていると、レイプされた頃のことを思い出して辛くなったということらしいのです。
 また、女医さんの古くからの友人の話によると、彼女もまた、川原先生と同じような過去を持っていたそうなのです。
 これで、私の疑問は全て晴れたかに思えました。
 しかし、本当に私が真実を知るのは、もう少し後のことでした。

 ある晩ベッドで横になっている時、私はふとあの再検査のことを思い出してしまいました。とても嫌な気分になって、私は頭を何度も振りました。その時、私は自分の体の変調に気付いたのです。
 私は、パジャマのズボンの中に手を入れ、パンツの上から股間を触りました。すると、そこはじっとりと濡れていました。私は自分が信じられなくなりました。屈辱の記憶を思い出したはずなのに、体の方は、どうやらその出来事を快感ととらえてしまっていたようなのです。
 怖くなって、私はベッドから跳ね起きました。言いようのない嫌悪感に襲われて、私は気が付くと、爪で体中を引っ掻き回してしまっていたのです。
 その時私は、川原先生の言葉を思い出しました。
「他人に無理やりされても、女は感じてしまうものなんだよ。悲しいけど、それが自然なことなのよ」
 川原先生はきっと、レイプされたことだけじゃなく、レイプされたことにショックを受けながら、それを快感を覚えてしまったこと自分に絶望したんだ、私はふとそんなふうに思いました。
 私も、レイプではないけれど、他人に無理やり快感をすり込まれたという点では先生達と同じです。これから先、私も先生と同じ思いを抱えながら生きていくことになるのでしょうか。そう考えると、不安で怖くてどうしようもなかったです。
 闇に包まれた部屋で天井をぼんやりと眺めながら、私は眠れない夜を過ごしました。

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