百花繚乱
百合ひろし:作

■ 第17章 丸紫7

生徒会長が練習期間を終えて、新人戦勝利したのを見て、亜希子、洋子と同期の栄子は生徒会長対策を立てた。元々栄子は大人しい性格で攻撃が苦手なので、その分早く勝負を決めるようにしていた。
生徒会長に対してはそれをより徹底して、兎に角長い手足を活かして生徒会長を捕まえて、技を掛ける。最初の手四つ一つにしても、まともに組み合ってると見せて実は生徒会長はリーチが足りない為組みきれず、栄子には力が伝わらない―――。
その作戦が効を奏し、フィニッシュ技で気絶させてスリーカウントで勝った。なかなか勝てずに生徒会長は珍しく不快そうな顔をしていた。負ける試合なんて面白くない。勝って倒れてる相手に笑顔を向けるのが楽しいのに。
また、生徒会長の性格を端的に表していたのはかえでとの試合だった。
友人同士の潰し合いはかつて亜希子と洋子がやったが、生徒会長とかえでもそんなノリだった。お互いに潰し合うのを了承した上でだったが、生徒会長は徹底的にやった。
反撃の糸口を見付けるためにかえでは様々な攻撃を使ったが、生徒会長はそれを避けて、ラリアットで倒すと、かえでをコーナーへ引きずり、顔面に膝を押し付け、更に両手で握り締めた。かえでは顔を攻撃されるのを最も嫌がるのにも関わらずである。その時の表情はまるで悪魔の様だった。生徒会長は入門後、練習生時代から髪を伸ばし前髪が目に被さってよく見えなかったが、その時は髪が透けて目が笑ってる様に見えた―――。更にカウントスリー取られて大の字になっているかえでを仁王立ちで眺めていた姿は、破壊を楽しむ姿に見えた。

丸紫にも自分の楽園を作りたかった生徒会長。邪魔な栄子を潰そうとしたがネックなのは身長差だった。しかし、新人として入って来た自分より10cm大きい美紗を倒し攻略のヒントにし、栄子を倒した。
技を受け、文字通り切り返した―――。
脅威の新人、美紗を圧倒し、通算成績では負け越してるものの栄子の攻略が出来た事で生徒会長はやり残した事は無くなり、美紗との試合後に引退した。

「口ではああ言ってるけれど、続けてればまだまだ美紗には負けないわね」
社長は呟いた。生徒会長は元々高校卒業と同時に引退すると決めていたから理由などどうでもいいのかも知れない。もっともらしく、美紗の成長を理由にした―――。

生徒会長引退後、美紗が生徒会長の穴を埋めるように活躍し最強の座についたが、何かが足りなくなった。社長は暫く考えていたが、単純な事だった。
元々今のルールにしたのは過酷さを際立たせる為―――。その過酷な状況を生徒会長は上手く作っていた。いや、本人は楽しんでいただけであるが、再起不能になるのではないかと思う程に相手を追い詰める。友達だろうが生徒会長よりかなりランクが低い相手だろうが容赦せず潰す、しかも笑顔で―――。
美紗にはそれが無い。元々真面目にアマチュアレスリングに取り組んでいたので生徒会長とは違い、如何に勝利するかが重要だった。丸紫のルールに合わせればどうやってフィニッシュ技のラリアットやパワーボムに持っていくか―――だった。

数年後、状況が変わった。香が入って来たからである。
社長は亜希子、洋子、栄子、生徒会長、美紗―――。入門を希望した全ての人達についてついて即座に調べたが、香も例外では無かった。
「社長―――」
部下の林緑が、書類を持って来た。社長は興味深く目を通した。
香は生徒会長と同様に、興味本意に来た部類に入る人だった。しかし、香と話をするうちに、香は生徒会長の代わりにはなり得ない事が解った。
それは、生徒会長の様な《陽》ではなく《陰》の色が濃いと感じたからだった。生徒会長は自分が楽しむ手段として丸紫を選んだ。そして笑顔で潰しまくった訳だったが、潰すのが目的ではなく自分の楽園を作る手段だった。
一方香は相手を痛めつける事に快感を感じることに気付いてしまい、相手を潰すのが目的―――。
勿論直接香からそう聞いた訳では無かったが言葉の端端からそれを匂わすのがみてとれた。

ストイックな美紗に陰の気を持つ香―――。そして生徒会長現役時には輝いていたがしぼみかけてしまった良。強い事は強いし派手さがあるので人気はあるが致命的な弱点がある為上位に入れないかえで。
社長は生徒会長がいた頃のあの盛り上がりをもう一度は厳しいかと思った。
しかし、意外な事で状況が一変した。社長は香に丸紫のルールを説明したが、香は今すぐは決められないと言って時間を貰った。その答えが―――。眼鏡を外し、体操服にブルマで髪をポニーテールにした姿だった。
丸紫設立から服装に関しては、危険ではなく動きやすければ良い、という以外は定めなかった。後は自己責任だった。
初期はレフリーがメイドだったものの、洋子を筆頭にスポーツジムでトレーニングする時に着るようなウェア等地味なものが多く、武道をやっていた者はその道着を着たり、ジャージ姿も居た。その中で栄子だけはなんちゃって制服を着ていた。
プルトニウム関東の様にマスクする人もいたが、それは次第に少なくなっていった。現在ではプルトニウム関東のみである。
それが変わってきたのはやはりこの人、生徒会長が入った頃からだった。生徒会長はシャツにフリルの付いたピンクのミニスカートとスパッツと可愛らしさを出した。また、かえでは濃い化粧にドレスやゴスロリ衣装と派手さを演出し、美里はナースのコスプレ、少し後に入った良は臍出し半袖Tシャツに半ズボン、と服装でもアピールするようになって来た。

そして香である。
香は性格は生徒会長の様に天然で明るくは無いものの、ブルマ姿という格好と新人戦で美紗に敗れた後は自分よりランクが上の者をバッタバッタと倒し、しかもその姿が非常に悪魔的だったので人気は急上昇した。
香は実力もメキメキ上げ、かえでと栄子に勝利する事で中堅から上位にランクインした。しかし、どうしても越えられなかったのは美紗という壁だった。その為、上位のランク内で順位が固定化してきてしまった。

社長はこれには危機感を持った。というのは賭けが成立しなくなるからだった。その為、上位に入る実力を持つかえでに発破を掛ける一方で、新人探しを始めた。
美紗と組んだ最強の外国人の様に外人も選択に入れた。彼女自身は油断から香に敗れ引退したが、そういうレベルの人が入れば香も更にレベルが上がるだろうと考えた。

「行きますわよ」
社長は銀蔵とメイドとゴスロリのレフリー二人に言った。
丸紫は積極的に新人獲得には動かない。元々闇の商売である為に、なんがしか問題を抱えて行き場を失った人の受け皿として、そういう人の目につく様に展開して来た。
勿論この時もそうだし、これからもそうであるのだが、時々街に繰り出してある程度アタリをつけておく事はやる。そうしたリサーチを元に得たのがかえでと美里だった―――。

「ココとココ、危ないですね―――」
四人で繁華街を歩いてる時にメイドが地図を社長に見せて言った。そのうちの一つが相生坂田孤児院だった―――。
その二ヶ所にいる人達をある程度調べたが、社長、銀蔵、レフリー二人、つまり全員が丸紫で使えそうな人は居ないと判断した。

しかし一年前、相生坂田孤児院が潰れた。社長と銀蔵はたまたまその前の道を車で通り掛った。見ると、工事の作業員に話し掛けた後茫然とする二人がいた。
「あの娘達は?」
社長は銀蔵に聞いた。銀蔵は、
「以前調べた時にはいませんでしたね。チェック漏れかな」
と顔色を変えずに答えた。社長は、
「体は私と同じ位ありそうね。追い掛けましょう、分からないように」
と言って追跡したところ、ヤクザの下っぱに絡まれたので助け、後は亜湖とさくらの知っての通りという事だった。

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