母はアイドル
木暮香瑠:作

■ 妄想を誘う肢体5

 小林龍一は自宅のリビングで一人考えていた。
「似てたな……。声も……、顔の輪郭も……」
 耕平の家で見たまさみの顔を思い出しながら物思いに耽っていた。
「何が似てたんだ?」
 その時、突然、背後から声がした。声の主は、龍一の父親・小林龍彦である。
「ああ、オヤジ。帰ってたのか」
 龍一は父親に向かって振り向き、言葉を続けた。
「耕平の従妹って娘がちょっとね」
「耕平って、お前のバンド仲間の。誰かに似てたのか? その娘。美人だったのか?」
 龍彦も龍一以上に女好きである。すぐにその容姿を気にする。
「星野奈緒って知ってるだろ? 彼女に似てたんだ。でも耕平の従妹の訳ないし、奈緒が……」
「星野奈緒かぁ。昔、グラビアを撮ったな、ビキニの……。最近じゃあ、お呼びも掛からねえが……」
 龍一の話に龍彦は、記憶をたどり愚痴を言った。

 龍彦は、プロのカメラマンである。グラビアを専門に撮っているが、その女癖の悪さから、最近では三流のプロダクションの売れる見込みもない女の撮影しか仕事がない。龍彦が撮ったのは、三年前の十四歳、ジュニアアイドル時代の星野奈緒だ。
「へえ、彼女の写真、撮ったんだ」
「ああ、デビュー当時に一度だけな。いまじゃ、若手トップ女優か、奈緒も。もう俺が撮ることもないだろうな」
 龍彦は、奈緒のブレイクを悔しそうに愚痴る。そして、撮影現場を思い出す。
「ちょっとHなポーズ取らせたら泣き出しやがってよ、あの小娘。それ以来、彼女からグラビアの依頼はなくなりやがった」
 龍彦は、チェッと舌を鳴らす。
「オヤジのことだから、酷でえポーズ取らせたんだろ」
「大股開いたポーズ取らせただけだ。下からのアングルで、膨らみを撮ってやった。割れ目が浮き出るように、パンツをもっと食い込ませろって言ったら泣きやがった」
 龍一の問いに龍彦は、太腿の内側、脚の付け根を指差し言う。
「アイツ、太腿の付け根に黒子があってよ。ビキニラインのちょうどこの当たり。マ○コの横のところ。あれはスケベ黒子だぜ。ヘヘヘッ」
 龍彦は、当時の星野奈緒の瑞々しい肢体を思い出しいやらしく笑った。
「黒子か……」
 父親の話に龍一は、ニヤリと笑った。



 日が高くなって起きた耕平は、窓の外を見た。時計はすでに、十時を周っている。雲一つない青空だ。ずっと親子二人暮しで、青空を見ると洗濯日和だと感じるような習慣になっていた。奈緒をおかずにマスターベーションに耽った気まずさを感じながらも、耕平は一階に降りていった。

 キッチンにもリビングにもまさみの姿はない。耕平は、まさみの姿が見当たらないことに安堵する。昨晩の今朝では、やっぱり顔を合わせ難い。
「洗濯しなくちゃ。結構溜まってるからな」
 昨日、バンド合宿の荷物から洗濯物を洗濯籠に放り込んでおいたのだ。耕平は、洗濯機のあるバスルームの手前の脱衣場に向かった。
「あれ? 洗濯物がない」
 洗濯籠は空っぽで、ほのかに洗濯したての洗剤の匂いが漂っている。

 耕平はベランダに向かった。ベランダでは、まさみが洗濯物を干していた。家族の洗濯物が一緒に干されている。
「洗濯したのか?」
 耕平は、複雑な気持ちでまさみに尋ねた。今まで自分がしていたことが、一つづつまさみのものになっていく。家族の中に、まさみの占める面積が増えていく。耕平の中にも……。そしてもう一つ気になることがあった。
「一緒に洗ったのか?」
「えっ? だめだった? 特別な服とかあった? 手洗いしなくちゃいけないものとか……」
「いやっ、そうじゃなくてお前が嫌じゃないかと思って……。男物と一緒に洗うのは……」
 気にしているのは耕平の方だった。自分のトランクスの横に、これでお尻が入るのかと思う小さくカラフルなパンツ、十七歳が使うには大きすぎるのではと思われる大きなカップのブラジャーが一緒に干されている。十年以上も男所帯に育った耕平には、それだけでも刺激的だった。
(あのパンツが奈緒の尻、包んでるんだ。あのブラジャーの中に、奈緒のオッパイが……)
 つい目が、洗濯物とまさみを交互に見詰めてしまう。

「勿体無いじゃん、分けて洗うのって。私は気にしないよ」
「あっ、そうだな。サンキュッ! 洗濯までしてもらって」
 まさみの声に、然したる考えもなく同意する。お尻を見詰めていた罪悪感もあって、お礼まで言ってしまう。
「何言ってんの。親子でしょ?」
 まさみは、当然のことをしているだけだと言った。

 今まで180cm近い耕平と父親が使っていた物干しは、164cmのまさみには少し高かった。背伸びするように洗濯物を干していく。そのたびに、引き締まった双尻がツンと攣りあがり、両手が持ち上げられ脇が耕平の目に晒された。脇の向うには、小さな背中に遮りきらないバストが持ち上げられ見え隠れする。
「ああ、まだ認めてないがな」
 耕平は、まさみに聞こえないようそう呟くと部屋に戻っていった。これ以上見続けていたら、危ないことを考えてしまいそうだった。

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