母はアイドル
木暮香瑠:作

■ 突付けられた罰3

 まさみがこの家から居なくなる。それどころか、父親と自分の関係までも壊れてしまうかもしれない。動揺が、耕平を無口にさせた。テーブルをじっと見詰め、文化祭の打ち合わせどころではなかった。みんなの話し声も、頭の上を通り過ぎていき耳に入ってこない。
「……耕平、これで良いよな」
「えっ? ああ、それで良いよ」
 耕平は及川の問い掛けに、話の内容も判らず曖昧な返事を返す。上の空だった。

 視線は、まさみに注がれていた。まさみの細い腰が小さく揺れている。俯いた顔は紅く染まっている。及川と柴田は、まさみが腰を動かすたび、ブルン、ブルンと揺れるその大きな胸に釘付けになっている。みんなの目の前で、まさみの後に廻された龍一の手がお尻を摩っているのだ。
(ちきしょう、俺はどうすればいいんだ?)
 混乱した頭では、どんなに考えてもこの窮地の打開策は見つからなかった。全てを知られている。まさみの秘密も、誰にも父親にも知られたくない耕平の秘密も知られてしまっている。それに、まさみ自身が耐えると言っている。我慢してと言っている。耕平には、どうすることも出来なかった。

 龍一に視線を移すと、まさみの耳元で何か呟いているのが見えた。まさみは恥ずかしそうに眼を瞑り、龍一の方に顔を向けた。龍一は、まさみの唇に自分の唇を重ねた。
「おおっ、見せ付けてくれるな。お前たち、どこまで進んでるんだ?」
 及川が、龍一には敵わないと諦め顔で冷やかす。
「ただの友達だよ。なあ、まさみ」
 龍一は。まさみを呼び捨てで呼んだ。みんなに只ならぬ仲であることを知らしめるように。まさみは、視線を斜め下に逸らし答えようとはしなかった。

 只ならぬ仲を見せ付けられ、龍一には敵わないと思ったのか及川と柴田は、熱心に打ち合わせをしている。まさみにかっこいいところを見せよう、そうすればもしかして俺に振り向いて貰えるかもしれない……。そう思ったのかいつもに増して熱が入っている。打ち合わせを詰まらなそうに聞きながら、まさみにちょっかいを出していた龍一が口を開いた。
「まさみ、お前の部屋、見せてくれよ」
「!?」
 まさみは、顔を強張らせた。
「おい、文化祭でやる曲はどうするんだ」
 及川が、龍一の自分勝手な行動に文句を言う。柴田も、うんうんと頷いている。及川たちの本音は、まさみを独り占めされるの悔しかったのだろう。
「適当に決めてくれ。何でも良いよ、どの曲になってもちゃんと演奏してやるから」
 たしかに龍一なら、どんな曲でも演奏できるだけのテクニック持っている。龍一に言われると、及川たちも何も言えない。柴田は、耕平に話を振った。
「耕平、いいのか?」
 まさみがいなくなるのを残念そうに柴田が言う。
「あ? ああ……」
 耕平は曖昧な返事を返した。耕平は、龍一とまさみが二階に上がり二人きりになることを拒むことは出来なかった。一瞬、悲しそうな表情を耕平に向け、まさみは龍一とリビングを出て行く。及川と柴田は、二階で二人っきりになるまさみと龍一が何を行なうか各々の妄想を膨らませた。部屋を出て行くまさみと龍一の背中にねっとりとした視線を送る。しかし耕平は、その後姿を見ようとはしなかった。



「みんなの前でキスするなんて……酷い」
 まさみは、先ほどのリビングでのキスを詰る。しかし龍一は気にすることなく部屋を見渡している。
「へえ、これがアイドルの部屋か。割と地味なんだな」
 龍一は部屋を一通り眺め、そしてまさみのベッドにドカンと腰を下ろした。佇むまさみを見上げるように、鋭い視線をまさみに向けながら言う。
「脱げよ。抱いてやるからよ」
「えっ、いやっ! ここではよして……」
 まさみは、龍一の視線に刺されながらも拒否の台詞を吐いた。
「大きな声を出すなよ。下に聞こえるぜ。聞かれちゃまずいだろ? お前の秘密を……」
 あくまで冷静に、龍一は子供を諭すようにやんわりと脅迫する。しかし、その裏には有無を言わせない圧力が隠されている。
「ここは……先生の、耕平君の家なの……」
 まさみは、龍一の視線の圧力に押されるように小さな声で許しを請うた。
(私が、私自身に戻れる場所……、暖かくなれる場所なのに……)
 悲しさを漂わせた瞳がメガネの奥で閉じられ、そして顔を横に弱々しく振った。

 龍一は立ち上がり、まさみを抱き寄せ柔尻に指を食い込ませた。
「痛ッツ!」
 柔肉に食い込む爪の痛さに、まさみは仰け反り天を仰ぐ。龍一はもう一方の手を、仰け反り突き出された胸に覆い被せる。そして、ギュッと握り潰す。
「うっ、いやっ!!」
「思い出すだろ? 昨日もあんなに喘ぎ捲くってたじゃねえか」
 まさみは、その大きな瞳で龍一を睨み返した。感じていたことを否定するように。
「でかいのに感度は抜群だな。このでかい胸、潰されて感じるんだろ?」
 まさみは、毎日呼び出され犯されていた。この一週間で、まさみの性感帯は知り尽くしたとばかりに胸を握り潰す。
「あうっ!」
 思わず声が漏れてしまう。柔肉に食い込む指先の感覚に、その嬲られた記憶が呼び起こされる。不覚にも感じてしまう自分の身体が恨めしい。
「で、でも、……いやっ!」
 まさみは、顔を真っ赤に染め俯いた。

■つづき

■目次

■メニュー

■作者別


おすすめの100冊