母はアイドル
木暮香瑠:作

■ 染み込んでいく官能2

 授業の緊張から解放された若さが弾ける騒々しい昼休み。耕平はまさみの作った弁当を頬張る。いつもなら、その美味しさに舌鼓を打つのだが、今日は味さえ感じない。まさみのことが心配なのだ。こんな調子だと、放課後のバンド練習さえ身が入らないだろう。
(今日はバンドの練習もやめて、放課後はすぐに帰ろう)
 昼食を食べ終えた耕平は、バンド練習を休むことを伝える為に及川の教室へ向かった。
「及川を知らないか?」
 教室の中を見渡しても、及川の姿は見つけられなかった。耕平は、入口近くにいた見覚えのある男子生徒に訊ねる。
「及川? あれえ? 居ねえな、さっきまではいたけど……」
「どこか行った?」
「さあ。いつもは弁当だけど……、今日は食ってるの見なかったな……」
 クラスメートが、いつもなら弁当を食ってる筈の及川の席を眼で指し示しながら言う。及川の机の上には何も無く、弁当を食べた形跡は無かった。
「今日はパンかな? 買いにでも行ったんじゃないか」
「そうか。ありがとう」
 クラスメートの曖昧な返事に、耕平はお礼だけを残し及川の教室を後にした。そして、柴田の教室へ向かった。
「柴田? 午前中はちゃんと居たけどな。おかしいな。昼飯でも買いに行ったんじゃない?」
 柴田の所在もクラスメートは知らなかった。
(変だぞ。二人とも居ないなんて……。どこ行ったか判らないなんて……)
 自分の教室へ向かってトボトボと歩いていると、五時限目の始業を知らせるチャイムが鳴る。
「おーーい、耕平! 授業、始まるぞ」
 耕平の姿を廊下の奥に見つけたクラスメートが声を掛けた。
「ああ、判ってる」
 耕平は、小走りに教室へ駆け込んだ。



 龍一の言付けを守る為、自分の部屋で服を一枚一枚脱いでいくまさみ。横には、エプロンが用意されている。先生に美味しいものを食べて貰おうと買ったお気に入りのものだ。淡いピンクのフリルに飾られたエプロン、新婚気分を味わいたくて、ちょっと気恥ずかしいのを無理して選んだエプロンだ。服を全て脱いだ時、誰かに見られているように感じ気配のするほうに振り返る。そこに在ったのは、全身を映す姿見だった。姿見には、全裸の女性がこちらを見ている。もちろん映っているのは自分の姿である。
「ふうっ、意識過剰になってる? わたし……」
 姿見に映る自分の姿を見て、心なしか胸が大きくなっているような気がする。乳首もツンッと上を向いている。
(お尻も……丸みを帯びてきてる?)
 横から映してみたお尻は、括れが鮮明になってきた腰からなだらかに続くお尻がツンッと吊り上がっている。

 姿見に映った自分の身体は、女の色香を放っている。まるで、男を誘う為の輝きを放っているように感じた。
「イヤッ……!」
 自分の身体が嫌らしくなったようで心が荒む。まさみは自分の身体を隠すように、慌ててエプロンを身に着けた。
「いやあ……、もっと嫌らしい……」
 裸に直に着けたエプロンは、まさみの身体をより嫌らしく強調した。エプロンの胸当ての上からは、深く刻まれた谷間が覗いている。両サイドにはみ出した膨らみは、胸当ての下に隠された肉丘の豊かさを想像させた。前垂れからは、スラリとの伸びた脚が太腿まで見えている。少しでも捲ればその下の恥丘、翳りまで見えそうだ。すらりと伸びた適度な肉付きの太腿も、ミニスカートから覗けば健康的に見えるだろう。しかし、その下に何も着けず翳りと縦裂を隠し、捲れれば全てを晒す。振り向けばナマ尻を覗かせると思うと卑猥なだけである。

 胸が膨らみ始めた頃、恥ずかしさと共に大人に近づく嬉しさを感じていた。しかし、身体の成長も今は、苦辱に思えてしまう。
「どうしてこんな格好をさせるの? 男の人って……こんな格好がすきなの?」
 まさみは、姿見に映る自分の姿を見ながら瞳に涙を湛えた。

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