母はアイドル
木暮香瑠:作

■ 危険な愛戯5

「じゃあな」
「また来いよ。その娘のなら、いつでも高額で買うぜ」
「ああ、金が必要になったらな」
 龍一は、金を受け取り店を出ようとする。しかし、まさみは店の中でじっと身体を硬くしていた。
「早く来いよ。これから楽しいデートだぜ?」
「で、でも……」
 まさみは手で、胸とキャミの裾を押さえたまま動けないでいる。
「透けてる……。こんな格好で……外に出れない……」
 当然のことであった。白いキャミの下は、肌を守るものは何も身に着けていない。胸を覆った手を退ければ、大きく迫り出した胸の頂点に鎮座する乳頭、さらに乳輪までもが見える。キャミの裾を押さえた手の裏では、股間の丘を飾る茂みさえ透けて見えているに違いなかった。さらにはキャミの裾が少しでもめくれれば、張りのある吊り上ったヒップ、前からは柔らかい繊毛に飾られた恥丘を衆人に晒すことになるだろう。
「置いていくぞ! どうなってもしらねえぞ」
 龍一は素直に言うことを聞かないまさみに、少し怒ったように言葉を続ける。
「たちの悪い客が多いからな、この店は……」
 店の奥に目をやると、個室からさっきの客が嫌らしい目でまさみにじっと見ている。まるで、まさみが一人ここに残されるのを期待するかのように……。店内にいた客も、個室から現れたキャミソール姿のまさみに目を奪われている。生脚の太股を丸出しにし、胸の隆起も半分が見えている。裾が翻れば股間を拝めそうだし、少しでもキャミの胸元が下がれば乳輪が見ることができるだろ。まさみを見つめる視線は、そうなることを期待していた。この店は、端から好色な人間の溜まり場であるショップなのだ。ただでさえ危険な雰囲気が漂っている。彼氏が側にいるから、遠目に眺めているだけなのだ。一人まさみがここに残されたら……。
「いやあ! 待って、着いてくから!! 置いていかないで……」
 まさみは両手で胸と股間を隠し、店の外に一人出て行く龍一の後を追いかけた。



 龍一の背中に寄り添い、Tシャツをちょこんと摘み、もう一方の手でお尻を隠しながら付いて行く。風が何も着けていない火照った股間をひんやりと吹き抜けていき、危うい格好をしていることを自覚させる。今は、龍一だけがまさみの頼りだった。街中では、女性たちの軽蔑のまなざし、男たちの性的興味に満ちた視線が前から後ろから突き刺さってくる。この場を逃れるにも、こんな恥ずかしい格好で、大勢の視線を浴びながら一人街中を駆け抜ける勇気はなかった。龍一の大きな背中が影になり、恥ずかしいところを何とか隠すことができる。今は、龍一の存在がとても大きな盾のように思える。

「どうした? さっきはあの男に犯されると思ったのか?」
 まさみは、こくりと小さく頷いた。
「そんなことさせる訳ねえだろ、恋人のお前に。好きな女を、他のヤツに抱かせる趣味はねえって言っただろ……」
 龍一はまさみの顔を見下ろし、きっぱりと言った。そして言葉を続けた。
「ただ俺は、お前に気持ち良くなって欲しいだけさ。興奮しただろ? あんなに濡らしてたもんな」
 まさみは、顔を真っ赤にして俯いた。大きな声で喋る龍一の声……、周りの人に聞かれているのではないかと……。そして何も言わずに俯いたのは、恥ずかしさに身も心も打ち震える中、確かに感じてしまった自分がいたことを知っていたからだった。

「おい、もっと堂々としろよ。俺の恋人なんだから……」
 龍一は、俯いたままのまさみの顎に手を宛て顔を上げさせた。
「手を組もうぜ。恋人なら当然のことだろ?」
 龍一はまさみの左手を握り自分の腰に引き寄せ、まさみの右手を龍一の引き寄せた手に巻きつけさせ。まさみの恥ずかしいところを隠す手段が奪われる。傍から見れば、両手で恋人の左手に腕を絡ませているような仕草だ。左手は、胸の下を通り引き寄せられている。ただでさえ目立つ胸が、二の腕で寄せられ大きく迫り出す格好になる。
「だめえ、恥ずかしいから、手を離して……」
「何が恥ずかしいんだ? 恋人同士なんだから、腕を組むくらいなんてことないだろ」
「み、見られてしまいます……」
「俺は自慢なんだぜ、お前のスタイル。みんなに見せ付けてやれよ。そんなに大きいのに、ブラジャーをしなくても垂れない張りのあるバストなんて、滅多にないぜ」
 涙目の瞳で龍一を見上げるまさみに、龍一は微笑みながら言う。まさみの口元が少し緩んだ。こんなに恥ずかしい状況でも褒められたことを嬉しく思う自分がいることに気付き、思わず口元が緩んでしまった。

 龍一にいくら褒められても、スタイルを自慢しろと言われても、自分の格好を自覚するとやはり恥ずかしさが自分を責める。薄い布地を突き上げている乳首、ひらひらと揺れる裾の下には直接肌を撫ぜる風が入り込んでくる。火照った媚肉に冷たい風を感じるたび、羞恥に苛まれる。そして、衆人の視線を浴びると身体の奥から熱くなってくる。

 普段通りに井戸端会議に忙しい主婦が、二人の姿を見つけた途端に道を明けた。そして二人が通り過ぎると、振り返り今見た光景を軽蔑交じりの会話に花を咲かせる。ペチャクチャとお喋りに忙しいOL達も、まさみのスタイルのよさに嫉妬した後、全身に視線を這わせ衣装をチェックし、遠巻きに見ながら苦笑している。

「何? あのメガネの娘のあの格好……。胸の谷間は丸見えだし、生脚丸出し。パンティ、見えるんじゃない?」
「スタイルがいいのを自慢したいんじゃない? イヤな娘ね」
「それどころじゃないって! ほらっ! 乳首、透けて見えてない?」
「見えてる見えてる。それに、ノーパンじゃなかった。股間に黒い影が見えたよ」
「うそーー! 露出狂? 変態っているのね」
 OL達の大きな声での噂話がまさみの耳にも届く。わざと聞こえるように喋ってるとしか思えない軽蔑の言葉を投げつけている。

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