母はアイドル
木暮香瑠:作

■ 明かされた秘密2

「なっ! なんてことしたの、あなた達は……」
 圭子の顔が怒りにワナワナと震える。
「あなた、十八年前、覚えてるわよね」
 圭子は龍彦を鋭い目で睨み言った。
「十八年前? 何のことだ?」
 訳の判らないことを言うヤツだなと、怪訝な顔で圭子を睨む龍彦。
「忘れたの? わたしにあんな酷いことしておいて……」
 龍彦には、圭子が何を言おうとしてるのか判らない。
「一々、女の事なんか覚えてられるか。何かあったんなら、はっきり言えってんだ」
 ただ、胸騒ぎがする。龍彦は胸騒ぎを振り払うように語気を強めて言った。
「私よ! 星井ケイ……。アイドルとしてデビューしたてだったわ」
(ん? アイドル? 十八年前って言えば、俺がカメラマン・アシスタントをしてる時代……だな)
 古い記憶を辿り、しばらく考えて龍彦はやっと思い出した。何人も喰ったアイドルの卵達の中で、消えて行ったアイドルがいたことを……。
「ああ、俺が女にしてやった娘か。その後すぐ消えてったな」
「ええ、そうよ。グラビア撮影の後、あなたに犯されたのよ。初めてだったわ……。初めてだったのに……、子供が出来たのよ。だから……」
 古い記憶とまさみの年齢が、龍彦の中でやっとリンクした。
「うっ!? あの時の子供か? あの時、出来た子が……、それが奈緒……なのか?」
 龍彦の血が、コップに乱暴に注がれたビールのように騒ぐ。
「そうよ、まさみは……奈緒はあなたの娘よ」
 圭子の正解を告げる言葉が、龍彦の心に鉛を打ち込んだ。

「ははは……っ! 奈緒が俺の娘!? ふっ、セックスの相性が良い訳だ。同じDNAを持ったもの同士……。俺とも、龍一とも……」
 龍彦は、自分を嘲るように笑った。自分の愚かさを笑うように……。女には酷いことをするが、根は子煩悩な龍彦である。龍一にもありったけの愛情を注ぎ、男手一つで育ててきた。それだけ血の繋がりを大切にしてきた。大切にしてきたことを覆され、理性を失っていた。
「鬼! あなたは鬼よ!! うっ、うううっ……」
 泣き崩れる圭子の涙が、龍彦の良心を揺さ振る。
「かっ、帰るぞ!!」
「小林さん……、いったいどうしたんですか?」
 まだ二人の関係を計りかねている田中は、狐につままれた様に後を追った。



 その頃、まさみは龍一のベッドに横たわっていた。絶頂の余韻を堪能するように、気だるい身体を重力に任せ投げ出している。開いた太腿の間には、縦裂から溢れ出した白濁液がシーツに染みを作っている。菊座からも漏れ出してる白濁液が、二穴を犯されたことを物語っていた。

 横でタバコに火を点けた龍一が、まさみの方に顔を向けることなく言う。
「どっちが気持ちよかったか? 俺にはどちらの喘ぎ声も、感じてように思えたが……、ん?」
「言わせないで、恥ずかしい……。龍一さんは、恋人にそんなこと言わせるの?」
「恋人だから言わせたいんだ。どうなんだ?」
「どっちもよ……」
 まさみは、抱かれる時は恋人という約束を守り、龍一の期待する答えを口にした。

 ふうーーーっと、紫煙を天井に向け吐き出した龍一は物思いに耽った。
(約束は守っているってことか……。でも、俺はお前を本当の恋人にしてみせる、俺だけの女に……、絶対!!)
 そしてまさみに、命令を下した。
「耕平とセックスしろ。俺のチ○ポと耕平のチ○ポ、感じさせてくれるのはどっちか確認しな!」
 龍一は、まさみを自分のものとする最後の仕上げとして耕平とのセックスを決断した。初めての男より、自分の方が感じさせることが出来る。まさみが、初めての男・耕平より龍一に感じて初めて、身も心も龍一のものだとまさみに自覚させる。そのつもりなのだ。
「そ、そんなこと出来ない!! 耕平君はわたしの息子なのよ。わたしには、……先生がいる。耕平君は先生の息子なの。わたしの……息子なの……」
「俺に抱かれてるお前が、そんなこと言えるのか? 初めて抱かれた男だって、先生じゃない。耕平だったんだろ?」
 龍一は、瞳に涙を浮かべ懇願するまさみに言い放った。
「先生では感じなかったんだろ? じゃあ耕平で感じるか……試してみな。息子って言っても血も繋がってなければ、まだ籍も入ってないんだろ。何もお前が断るような障害はないじゃないか。今まで何人のチ○ポを咥え込んだ、そのマ○コで……。その中には耕平の友人だっていたんだし……」
「ひ、酷い! あなたが……抱かせたんじゃない、嫌がるわたしを……」
「ああ、そうだ。俺の命令に従うのは、恋人としてのお前の義務だ。俺の言うヤツと寝るのは……。耕平と寝て来な!」
 そう言うと龍一は、まさみに帰した。これで奈緒は、身も心も俺のものになる、そう確信して……。



 家に帰った龍彦は、龍一の部屋を覗いた。紫煙が煙る部屋には、龍一一人がベッドに腰をかけタバコを燻らせていた。
「な、奈緒は帰ったのか?」
「ああ、帰ったぜ。それがどうかした?」
 満足気な表情とベッドのシーツの乱れが、奈緒とのセックスが龍一を納得させる激しさで行われたことを示している。
「奈緒と付き合うのは止めろ!」
「どうして……」
 突然告げられた父親の命令に、龍一は戸惑った。いつになく真剣な父親の顔に驚きを隠せなかった。
「どうしてもだ!」
「何言ってんだい。俺と奈緒は、あんなに相性良いんだぜ。止める理由なんてねえよ。オヤジだってそう思うだろ?」
「止めるんだ、どうしても……」
「奈緒のプロダクションにばれたのか? ばれても、脅すだけの材料はあるだろ」
「違う、そんな問題じゃない。どうしても止めるんだ」

「何なんだよ。訳判んねえよ。理由を言ってくれよ。俺には判んねえよ、オヤジの言ってること……」
 何があっても味方でいてくれた父親の真剣な言葉に、龍一の反論も語気が弱くなる。表情には、戸惑いが露に現れていた。
 龍彦は、突然付き合いを止めろと言われ、仲を引き裂かれようとする息子を哀れに思い、そして真実を告げた。
「兄妹なんだ、お前たち……。奈緒は……、お前の妹なんだ……。俺の娘なんだ」

 ………

 永い沈黙が、龍一に与えた衝撃の大きさを表していた。
「ハハッ、ハッハハハ……、ハハッ……」
 重い空気を振り払う龍一の笑い声は部屋に響いた。
「ハハハハハッ……。相性が良い訳だ、俺と同じDNAを持って……るんだ。オヤジの血が、同じ血が……流れてるなんて……」
 苦笑いをした龍一は、奈緒のことを耕平に聞かれたときの事、奈緒を初めて犯した時の事が頭の中を巡る。
『彼女より妹にしたい女の子だな。なぜか抱く気が湧かねえ……、珍しい女だよ』
 耕平にそう答えたことを……。
『奈緒が妹じゃなくて良かった。妹ならこんな酷いことで出来ねえからな……』
 そう思ったことを……。

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