獣欲の生贄
フェラ男優:作

■ 洗礼2

そのまま男の車に乗り込むと都内の高級オフィスビルが林立する一角へと到着し、最上階にあるという自社ビルの社長応接室に行くことになった。
少ない廊下のドアの中央に一際重厚な造りの扉があった、「応接室」と書かれてある。
「それじゃあ、僕はここまでだから、社長には先ほど君をここに連れてくることを連絡してあるから大丈夫だ。 さあ、ドアを開けて入っていくのは君の心の準備ができてからでいい……」
男は意味深な言葉を残し去っていった。 ここまで来ておいて話もせずに帰れるわけがない、菜実は男の忠告をあまり考えもせずにドアを開けた。
「ああ……」
(なんなのこの部屋、大統領のホワイトハウスってこんな感じかしら……)
菜実は応接室に入るなり目を丸くした、あまりに広くて社長のいるところさえわからずキョロキョロと見回す。 しばらくしてようやく奥のほうの大きな机の大きな黒い革張りの肘掛椅子にスーツ姿の男がいるのがわかった。 周囲の高級家具や調度品が多く、インテリアに囲まれて大きな社長の机すら見失うほどだ。 机までドアから七、八メートルはあるだろうか、挨拶するにも遠いほどの距離だった。
「あのう……初めまして。 矢及菜実です」
菜実は大きめの声で挨拶した、聞こえないかもしれないと思ったのだ。
そして、近づこうとして数歩歩いてビクリと立ち止まった。
(誰か……いるの?)
椅子にのけぞるスーツの社長らしき人物のほかに、人の気配がする、それは社長の机の下のほうからだった。 机の下は大きく開いており、よく見ると確かにそこには女性がしゃがみこんで背中をこちらに向けているのだった、赤いハイヒールが揃って、菜実とはちがって熟して豊かなお尻がその上に乗っている。
(えっ……なんなの? 何してるの……わたし、ここに入ってきていいんだよね……)
菜実の頭の中がパニックになる。 女性と二人でいるところに突然入ってきていいわけないと思うのだが、入るように案内されてきたのも事実なのだ。

「やあ、菜実ちゃんだね。 待ってたよ……」
はじめて、社長の声がした、明るくうれしそうな声だった。 父の大学の同期なのだ菜実にとっては父親と違和感のない口調に聞こえて安堵した。
「そこじゃあ、話がしづらいよ、もっと僕のほうへ来てごらん」
社長の坂井敏一はにこやかに手招きする。 オールバックに流した髪に浅黒い肌……一見、湘南のサーファーのような格好良さとさわやかさがあった、ただし、机の下にうずくまる女性がいなければなのだが……。
菜実は近づいて話ができる距離までくるとチラリとその女性を見た。 社長がこっちを見ているのであまりじろじろとは見れなかったが……。
赤いハイヒールを揃えるようにしてしゃがみこむ女性は光沢のある薄いブルーのスーツに白のブラウス、赤いスカーフと大きなイヤリングが見えた。 菜実の位置からはちょうど頭のところが机に隠れてしまい顔は見えなかった、社長の足元で寝ているのかとも思ったが、赤いヒールの上にある大きく豊かなお尻の丸みが微かに前後するのだ……、菜実は不安に思いながらも、まさかとは思い社長の言葉を待った。
「いやあ、ほんとうに来てくれたんだね……うれしいよ。 君のうわさは以前から聞いていたんだ、本当に……君の若い頃のお母さんにそっくりだよ、ふふ」
そこまで聞いて菜実は背筋がピクンとする戦慄をおぼえた。 やはりあの男の言ったとおりなんだろうかと思うと手に汗がにじんでくる。
「まあ、聞いてくれよ。 あの男から少しは聞いているだろう? 僕は君のお父さんの知人なんだ、そしてお父さんの会社の危機を助けたいと思っている、これは嘘じゃない、ほんとうに今君を見てそう思ってるんだ、それは解ってくれ、そしてその力もうちにはある。 そう、思わないかい?」
人の会社を潰そうとしておいて、よく言えるものだと菜実は思った。 菜実の唇がキッと引き締まり怒りの色があらわになる。
「ふふ、これはビジネスなんだよ、いたって合法だ、残念だが君のお父さんは技術者としては僕より優秀だったが、経営のミスを犯したんだ、出資者を騙すような見せ掛けの成長を提示して株価を吊り上げた、これは犯罪なんだよ……」
社長が言うと、菜実は悲しげにうつむいた。
「いや、すまない。 こんなことを君に言うために呼んだんじゃないんだ。 僕はその君のお父さんの会社を助けようとしているんだ、そうしたい理由がある、なぜだかわかるかい?」
菜実はしばらく考えてから口を開いた。
「父を恨んでいるんでしょう。 結婚前の母を好きだったと聞きました、どうして父の会社を助けてくれるんですか……」
菜実は尻切れに弱々しく語った。

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