青春の陽炎
横尾茂明:作

■ エピローグ

 学校が終わり由紀はマサルを探した……。
何処にもいないマサルの陰を追って走った…。涙が出た…。

 マサルに捨てられたと思い泣きながら走った。マサルは今朝由紀が帰れる時間まで待ってると言ってくれた。…きょうもマサルにイッパイ抱いて欲しかった、イッパイ…イッパイ…。

 由紀は死ぬつもりで昨夜マサルに抱かれた…。だがマサルに抱かれてもう少し生きてみようと思った。
マサルに愛され…、また、マサルを死ぬぐらい愛し…、それから死んでも遅くはないと由紀はおもった。
だけど…、だけど…、マサルは居ない…何処にもいない。
走り疲れ…由紀は教室の机にもたれ泣いた…。
(マサル君)
…由紀は死を覚悟した。


 泣きながら橋のたもとまでで来たとき秋風が由紀の頬を撫でた……。
(せめてマサル君にイッパイ、愛されて死にたかったのに…)
由紀は橋の欄干に手を掛け泣いた…。覚悟はとっくに出来ているのに、今マサルに逢えなかったことが由紀の心を引き留めていた。

 走る足音が由紀の背中で停まった…。
「由紀!」
…由紀は振り返った。…マサルが泣きながらこちらを見ている…。
「あーー」
…由紀の目は溢れる涙で前が見えなくなった。
「マサル君…、マサル君…」

 由紀は道行く人など目に入らないかのようにマサルに飛びついた。…マサルの胸を叩いた。

「マサル君の意地悪…、意地悪…。エーン」

 由紀は子供が母に甘えるように泣いた。

「由紀ゴメンネ…。敏夫に由紀の事をあきらめてもらったよ…。いま写真とビデオを取り返して来たんだ! …由紀もう安心していいんだよ、…安心していいんだよ]

 マサルは由紀の腕を優しく解き、持って来た段ボールの蓋を開け…写真とネガを破り捨て川面に投げ捨てた…。由紀はビデオテープをハイヒールで砕きマサルに渡した。…それはあたかも恥辱との決別の作業のようであった。

 由紀はマサルを愛した…。人はこれほどの感情で人を愛することが出来ようかという程に……。

 マサルは由紀を一生守り通そうと思った。…絶対手放しはしない…、もう絶対に!

 全ての恥辱の記録を川面にすてた二人は、幼い夫婦のように肩を抱き合い深く見つめあいながら愛の巣に帰って行った。……秋風が今年の冬の寒さを物語るように…、二人の後を追いかけて行った。

≪完≫


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