可憐な蕾
横尾茂明:作
■ 遠い夏
井の頭公園の木々の葉はすっかり落ち、所々につむじ風に落ち葉が舞っている。
剛史は今日も池の畔のベンチに座り…水面に揺れる木の葉を見ていた。
(もう四ヶ月がたつのか…)
(今田と沙也加は今頃何処にいるんだろう)
沙也加の裸が浮かんでは消え…代わりに今田のほくそ笑みが現れる。
煮えたぎるほどの怒りは最初の二ヶ月は続いたが…今は燃えかすがくすぶっていた。
もう何度溜息をついたのだろう…。
あの日…沖縄のホテルから忽然と消えた少女…。
半泣きに狂って数日探し回り、ホテル近くのレンタカー事務所に今田の陰を掴んだ。
所長の話しによると今田は数ヶ月前にこの事務所に面接に現れ、少女が失踪した同日に何も告げずに失踪していた。
剛史は教えられた今田の住むアパートに踏み込んだが…もぬけの殻であった。
部屋の隅に剛史が少女に買い与えた小さな水着がうち捨てられていた。
剛史は二人の消息を掴もうとゴミ箱をあさり、コンビニ袋のゴミを見つけ部屋にぶちまけた。
ゴミはほとんどがティッシュで…精液の饐えた匂いが部屋に広がった。
その時、小さく丸められた沙也加のパンティーがちり紙から零れた。
(あぁぁ…沙也加)
剛史は思わず鼻に押しつけ香りを嗅いだ。
(あぁぁぁ……沙也加だ…沙也加の匂いだ!)
涙が止めどなく流れ…剛史は声を出して泣いた。
泣きながら少女を如何に愛していたかを思い知る。
日が沈みアパートが暗くなったとき、管理人は惚けた剛史に驚き、アパートから邪険に追い払った。
暗闇をとぼとぼ歩きながら剛史はこのままでは狂うと思った。
(探す! 何としても探してやる)
ホテルに帰りチェックアウトし最終便で東京に帰り、一週間で溜まった仕事を処理しまた沖縄に戻った。
ホテル周辺にとどまらず、めぼしい街々を昼夜を問わず夢中で探しては東京へ帰り、またすぐに戻る生活が2ヶ月も続いたころ…。
もう沖縄には居ないと剛史には思えた。
それは少女の口座にある一千万は、失踪した翌日に全額おろされていたからだ。
その金で二人はとうに沖縄から脱出し、剛史の知らない遠い街に流れて行ったことは想像がついた。
沙也加の転出はまだされていない…と言うことは学校には行っていないという証。
今田とSEXに溺れながらの逃避行…。
あんないい加減な今田の何処がいいというのか!。
高校・大学に行かせてやると約した俺を捨てて…あんな野郎にくっついて…。
金が切れればまた捨てられるとわかっていながら…。
今田のSEXはそんなによかったのか…。
俺のSEXは拙劣だったということなのか。
それとも…愛してしまったのがいけなかったのか。
虐げられることに悦びを見いだす少女だったのか…。
また今田のほくそ笑みが浮かぶ…捕ってやったと嘲笑している…。
沙也加が虐げられ、泣いている顔が浮かんだ。
鬼畜に犯されそれでも今田に裸体ですがる少女。
性器を見せ…肛門を見せ…それでも殴られて泣き濡れる少女。
(見つけたら…殺してやる)
俺から何物にも代え難い美肉を持ち去った今田…。
(今度見つけたら有無を言わせず殴り殺す)
北風が開いた襟口から吹き込み思わず身震いする。
(もうすぐクリスマスか…)
(この冬…俺は耐えられるのか…)
(金が切れ…また捨てられたとき…)
(沙也加はここに戻ってきてくれるだろうか)
(いや…もう戻っては来ないだろう…)
(俺は…本当にこの冬を越せるのだろうか?)
剛史は涙を拭い、襟を両手で立ててから立ち上がった。
そして沙也加が元気よく駆け上った池の畔の階段に、ゆっくりと向かった。
終わり………
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