清めの時間
ドロップアウター:作

■ 10

 私は、玲のために「お祓いの儀式」の準備を進めながら、心の中でほくそ笑んでいた。
 もうすぐ、あの少女がここに来る。あの少女は、これから受ける辱めと苦痛に、どんな反応を見せるのだろうか。さっき脱衣を命じられた時のように、恥辱に体を震わせながらも精一杯耐えようとするのだろうか。それとも、耐えきれずに泣き叫んで、逃げようと思えば逃げられたこの異常な風習に参加したことを後悔するのだろうか。どちらにしても、いい姿だ。
 加虐の欲求が、心の中を満たしていく。あの少女は私の獲物だ。絶対に逃さない……。

 正座する足がしびれて、痛かったです。頭がまた少し、くらくらしてきました。両手は膝の上に重ねて置くように指示されているので、胸を隠すことはできません。
 もう、三十分以上もこうしています。乳房を晒しているので、落ちつかない気分でした。周りの女子もみんな同じ姿勢だから恥ずかしがることはないのかもしれないけれど、わたしはまだこの格好に慣れることができません。
 でも、もう涙は出てきませんでした。さっき、泣きたいだけ泣いたから。あの背筋が寒くなるような嫌な感じは、今はもう収まっていました。
「玲ちゃん」
 不意に背後から名前を呼ばれて、はっとしました。振り向くと、恵美ちゃんがしゃがみ込んで、切ないような目でわたしを見つめていました。
 わたしは、一瞬気まずいような気分になりました。今朝、学校の廊下で話して以来、恵美ちゃんとは口をきいていなかったからです。でもそんな気分は、恵美ちゃんの裸の上半身を見て、すぐに吹き飛びました。
 恵美ちゃんの未成熟な上半身は、胸やお腹に指を強く押し当てられたような赤い痕が、至るところについていました。
「恵美ちゃん、こんな……」
 ひどい、と言いそうになったけれど、わたしはその言葉を飲み込みました。今ここでそんなことを言っても、何の意味もないんです。
 だって……この後、わたしも同じことをされるんですから。
 恵美ちゃんは、目を伏せて、かすれたような声で言いました。
「次は、玲ちゃんの番だよ。えと、恥ずかしいけど……服は持ってきちゃダメだって」
「う、うん。わかった」
 わたしは、地面に手をついてゆっくりと立ち上がりました。また少し立ちくらみもしたけれど、今度は立っていられないほどのものではありませんでした。
「恵美ちゃん、さっきは……ごめんね」
 膝についた土を払いながら、わたしは恵美ちゃんに、朝のことをあやまりました。
「でも、わたし最後まで、がんばるから。恵美ちゃんだって、他のみんなだって、耐えてるんだし。それにわたし……恵美ちゃんと、これからもいっぱいおしゃべりしたいから」
 ふいに、恵美ちゃんが両手で、わたしの右手を握ってきました。
「……ありがとう。あたしの方こそ、玲ちゃんの気持ち分かってあげられなくて、ごめんね」
 わたしが恵美ちゃんに笑いかけて、それから「お祓い」を受けに向かおうとした時、「玲ちゃん」と恵美ちゃんに呼び止められました。
「あのね、玲ちゃんさっき……どうして、泣いてたの?」
 わたしは、短くため息をついて、一言だけ言いました。

「ちょっと嫌なことを、思い出しちゃって……」

   ※

 そうして、玲は「お祓いの儀式」の場所にやってきた。
「よく来たわね」
 私が少しあきれた口調で言うと、玲は「はい、来ました」と答えて、恥ずかしいような、照れたような笑みを浮かべた。
 意外に落ちついている。私は、少し驚いた。今、笑みを浮かべる余裕があるなんて。この子はついさっき、親友の痛々しい姿を間近で見ていたはずなのに。もうすぐ、自分も親友と同じ辱めと苦痛を受けることになるというのに。
 ただ、やはり恥ずかしいのか、玲は両腕を組んで裸の胸を隠していた。他の女子生徒の多くが、裸を見られること自体にはそれほど抵抗を感じていない様子なのとは対照的だ。
 私は、また心の中で密かにほくそ笑んだ。
 そう、それでいい。この少女には、強さと繊細さの両方を持ち合わせていて欲しい。それでこそ・・・痛めつけがいがあるというものだ。

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