清めの時間
ドロップアウター:作

■ 12

「あ、あの……」
 玲が、私を見上げて言った。緊張しているだけでなく、怯えたような目をしている。
「なあに?」
 私は、努めて優しく言った。
「もしかして……あの、パンツも脱ぐんですか?」
 玲は、ちょっと泣きそうな顔になっている。思春期の少女にとって、人前で下半身をさらすことは、思春期の少女にとっては耐えがたい屈辱のはずだから、当然といえば当然の反応といえる。ましてや、ここには異性もいるのだから。
 ただ、それにしても玲の反応は少し異様に見えた。さっきまで笑みを浮かべる余裕のあった少女が、少し股間を触られて、恥部を見られるかもしれないと思ったくらいで、こんなに表情を変えるものなのだろうか。

 まさかこの子、自分で……。

「脱がなくていいわよ」
 そう答えると、玲は心底ほっとしたという表情で、「よかった……」とつぶやいた。
「そんなに嫌だったの?」
 私がそう聞くと、玲は「えっ、あっ……はい」と少しぎくっとしたような顔になって、早口で言った。
「だって、パンツ1枚でいるのもすごく恥ずかしいのに、パンツまで脱がされるって考えたら、ちょっと……」
 わかりやすい子ね、と私は思った。
「そっ、それに……」
 玲は、ひしゃくでバケツの氷水をかき回してる自分の担任教師に、ちらっと目をやった。やはり、異性の目は気になるらしい。
「鈴木先生は、私がお願いして来てもらっているのよ」
 私は、他の女子生徒達にも言ったことをくり返した。
「一つは、安全管理のためにね。儀式の最中に、もし変質者が入り込んでくるようなことがあったら、女性の私だけでは対応しきれないから」
 玲は、素直にこくんとうなずいた。
「それともう一つは、これも儀式のしきたりなの」
 そして私は、せっかく安堵した少女を、もう一度不安にさせることを告げた。
「お祓いの儀式はね……五年以上この地方に住んでいる女性か、でなければ男性が行わなければならないのよ」

「えっ、鈴木先生が」
 案の定、玲は表情を一変させた。
「お祓いは、兵藤先生がするんじゃないんですか?」
「私はこの町に住むようになってまだ三年だから、私がお祓いをすることはできないの。B組の担任は女性だけど、あの先生はもう五年以上この学校に勤めていらっしゃるからできるのよ」
 玲は、何だか苦しそうに唇をかんだ。さっきその目で見たはずの、親友の体につけられた生々しい赤い痕を、思い出しているのだろうか。
「でも北本さん、鈴木先生のことを悪く思わないでね。鈴木先生も、本当は生徒に痛い思いをさせるようなことはしたくないの」
 ほら、あんたのことをここまで庇ってやってるんだから、最後まで私の指示に従いなさいよ。そんな思いで、私は鈴木を睨みつけた。私と目が合うと、鈴木はまた情けない顔で、目を伏せた。
「大丈夫です。そんなこと、思いませんから」
 玲は、短くため息をついて、きっぱりと言った。
「みんな、言ってます。鈴木先生は、優しい人だって」
「北本……」
 鈴木は顔を上げたが、すぐに目線を玲から逸らせた。玲がお気に入りの生徒だから、裸身に目をやることは少々気が引けるのだろうか。この期に及んで、嫌われるのが嫌なのだろう。まったくいじましい。他の女子生徒の裸は、積極的にとまでは言わないまでも、ほとんどためらいもなく見ていたくせに。
「……わたしも、入学してきたばかりの時……先生によく声をかけてもらって、まだ友達もいなかったから、すごくうれしかった」
 玲に見られないようにして、私は顔をしかめた。生徒の裸を見たいためにここに来て、さっきは勃起までしていたこの男には、とてもふさわしくない言葉だと思った。
「さあ、おしゃべりはここまでにして」
 私は、玲の言葉を遮った。この少女の純粋さに、この時ばかりは苛立たされた。


「じゃあ、またこの線の上に、気をつけの姿勢で立って」
「はい」
 玲は、少し土で汚れた素足を、線の上で揃えて立った。
「……そう、いい姿勢よ。できれば、もう少し胸を張って」
 私は、淡々と指示を出した。
「はっはい……こう、ですか?」
「そうよ。それだと、スムーズに調べられるわ」
 言われたとおり、玲はくっと胸を張った。
「じゃあ、始めるわね」
 そう告げると、玲は「はい」と短く返事して、短くため息をついた。
 私は、両手を伸ばして……玲の未成熟だけれど美しい左右の乳房に、そっと触れた。
 少女は、「くっ……」と息を漏らして、強く唇をかんだ。
「これから、あなたの乳房を、指先で押していくわよ」
「はい……」
 玲がかすれた声で返事すると、私はこの少女の乳首の周囲を、左右とも、両手の指先で円を描くように押していった。
 思ったとおり、やわらかな乳房だった。触っていて、気持ちが良かった。あまりにも触り心地が良くて、私は本来の目的をつい忘れそうになった。
 乳房を押していくと、この年齢の少女らしい、ピンク色のかわいらしい乳首が少しずつ隆起していった。玲の顔を見ると、唇をかんで少し苦しそうではあるけれど、時折、何だかうっとりしたような表情を浮かべることもあった。
 私は、中指で、玲の乳首をそっとなでてみた。その瞬間、玲は「あっ」と声を漏らした。
「乳首も触ってみるね」
「えっあっ……」
 返事を待たずに、私は乳首を弄り始めた。中指で少し強く押してみたり、親指と人指し指でつまんでみたりした。
「どこか、痛いところはない?」
「いいえ、痛くは……ないです」
 少女の息が、少し荒くなっている。本人は無自覚なのかもしれないが、少し性的な快感を感じているようだった。
「今は何ともなくても、普段痛かったり、かゆみがあったりしたことはない?」
 私は、健康診断に付きそう養護教諭の口調で言った。
「はっはい、あの……んくっ、せっ……生理の時に……」
 呼吸が少し乱れているせいで、声が途切れ途切れになった。年端もいかない少女の姿が、少しずつなまめかしいものへと変わっていく。
「胸が……んっ……少し張って、痛くなったり……します」
 しゃべりづらそうにしながらも、玲は、私の質問に精一杯に答えた。その真面目さと従順さに、私は満足した。

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