黒い館
けいもく:作
■ 7.館の掟2
お館様はもう一度裕美さんを抱きしめ、肩からうなじに舌をはわせ、その甘い香りを嗅ごうとしていました。慣れ親しんだ、心が安らぐ裕美さんの香りでした。そして、どんなわがままでもかなえてくれる身体でした。
お館様が裕美さんを離すと、裕美さんはスカートをはき、ブラウスを着ました。そして、鞭打ちも終わりのはずでした。
わたしは、迷っていました。いえ、ほんとうは迷っていなかったのかもしれません。心は定まっていても、足がすくんで動けなかったのかもしれません。眼はお館様の持つ鞭に釘付けになっていました。
裕美さんが「行きなさい」と言って、肩をたたいてくれました。
わたしは、お館様の前で「お願いします」言っていました。
「いいでしょう」
わたしは、お館様の遠慮のない視線を感じながら、服を脱ぎ、たたんで椅子の上に置き、スカートを脱ぎました。ブラジャーとパンティをはずしました。
わたしの肉体の一切を隠してはいけないはずでした。隠すような脱ぎ方をしてもいけませんでした。
たぶんそれは、見る権利のようなものだと思いました。乳房をつかむ権利であり、キスをする権利であり、フェラチオをさせる権利でもありました。
わたしにはお館様が、どこまで与えられた権利を行使するつもりかわかりませんでした。ただ、わたしの志願したのは鞭で打たれることでした。
わたしは、ひざまずいて両手を頭の上で組みました。目を閉じて、電灯の明るさに裸体をさらしました。
次にわたしがどう扱われるのかは、お館様が決めることでした。わたしにできることは、お館様の望むように身体を委ねることだけでした。股間を開いていたのは、そこにお館様が手を入れやすいようにするためでした。もちろん指をねじ込まれても甘受する覚悟はできていました。最終的にどのような行為におよぼうともでした。
大事なのは姿勢を崩さないことでした。それは、わたしの忍従の意思表示でもありました。
でも、お館様がしたのは、突拍子もないことでした。太ももに何かがあたるのを感じていました。
そして私の膣部に触れてきたのはお館様の指ではなく舌だったのです。私のひざまずいた股間の狭い三角形の部分にお館様の頭がもぐりこんでいたのです。真下から私の膣とお尻の間の部分を舐めていました。
真剣に身体を捧げようとしたわたしに、と思いました。あまりにひどい、悪ふざけでした。そんなところを下から舐められたのは初めてでした。恥ずかしいのか、こそばゆいのかわかりませんでした。ただ、本来女性が隠さなければならない部分が、最もよく見える場所だと思いました。
その悪ふざけにわたしには、対処するすべがありませんでした。動くこともできませんでした。目を閉じて、頭上で手を組んだ、鞭で打たれるための姿勢を続けていたのです。
そして、案の定と言うのでしょうか。お館様は指を絡めてきました。人差し指と中指を触れさせゆっくり前後させていました。子宮への入口を指が何度も這っていました。あるいは、両方の穴に同時に指を入れられるかもしれないと思いました。
でも、お館様の悪ふざけはそこまででした。いたずら心は、会心の笑顔とともに十分な成功を収めたようでした。
お館さまは、私を抱いてキスをしました。緊張から解放されて、抱擁されたわたしは、怒りたい気持ちとうれしさが交錯していました。
「バカ」と呟き、ゲンコでお館様の胸をたたくふりをしました。なぜか、頬にまで涙がつたっていました。
「さあ、鞭だから」
「うん」
私は「ハイ」ではなく「うん」と答えていました。
お館様はかまえた鞭を私に振り下ろしました。
「1」
切るというより、たたかれたような痛さだと思いました。
わたしの鞭打ちは、背中への3回だけでした。だから、なのかもしれません。爽快な痛さでした。わたしは幸福な気持ちに浸っていました。
お館様は、わたしの乳房をもみながら、「次にここへ来るようなことがあったら、君は、もう客じゃないから」と言いました。
言っていることの意味もわかりました。客でない女性のすることは、身体でお館様に尽くすことでした。
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