黒い館
けいもく:作

■ 10.売春婦の屈辱3

 お館様は、わたしの肩をポンポンと叩き、「大丈夫、何もしないよ」と笑いました。

 でも、それは嘘でした。おやかた様はわたしの乳房を咬むつもりでした。ただ、わたしが脅えたのであきらめたのでした。わたしは腰を引いていました。

 もちろん、お館様にとっては、私の乳房を咬むなど簡単なことでした。私の肩に手を回し、引き寄せれば、おやかた様の顔に私の乳房が当たるはずでした。

 だけど、お館様は、それをしませんでした。右隣に裕美さんがいたからでした。あるいは、本音では、はじめから咬みなれた裕美さんの乳房を咬みたかったのかもしれませんでした。

 ためらうこともなく、おやかた様は、裕美さんの乳房に歯を立てていました。

 きっと、かなり強く咬んでいたのだと思います。由美さんは、眉間にしわをつくり、「ああ、痛い」と言いました。でも、お館様は、裕美さんの乳房を咬んだ歯をはなしませんでした。

 裕美さんもお館様の頭を、両手でしっかりと抱えて、痛さに耐えていました。

 お館様は、女性の乳房を咬んで気持ちを正常に戻したかったのだと思います。

 わたしの失敗は逃げたことでした。お館様が乳房を咬みたいと思えば、わたしは自分の乳房を差し出せばいいのでした。

「おれが、始めてその話を聞いた時、内容が悲惨すぎて、どう言ったらいいのかわからなかった。打ちのめされた気分だった。でも、一晩じっくり考えた。おれが裕美を救ってやると思った。

 おれは次の日、裕美に結婚を申し込んだ。さすがにこれには裕美もあきれていたようだった『あなた正気なの?』『君は地獄で五年間を暮らしたかもしれないが、おれは、君の事を想い十年間オナニーを続けてきたんだ。簡単にあきらめてたまるか』裕美がクスッと笑った。懐かしい裕美の笑顔だった。

 それで、その日もおれは裕美を抱かせてもらった。裕美がどのような体験をしていようが、おれには裕美の身体はすばらしく、かけがえのないものだった。

 ドライブやら映画やらコンサートにも誘ったな。そのたびに裕美はすこしずつ、心を開いてくれるようになった。下半身は、必ず裕美の世話になっていたが。

 その頃から裕美は、何をしても絶対いやだと言わなかった。電車に乗ってはさわり、ホテルでは、何時間もかけて裕美の全身をなめまわした。

 ある時、SM系のホテルにいって、病院の診療器具のような台に、おれは脚を開かせた状態で、裕美を縛りつけた。そうしたら裕美が、『あの時もこんなふうにされた』と言った。

 卵巣を取り除かれた時のことだった。粗末な台に身体を縛り付けられ、鉄パイプを突っ込まれたそうだった。それだけで裕美は、一生涯子どもを産めない身体にされた。

 おれは、そんなことを平然と話す裕美がなんとなく歯がゆくなってきて、つめを立てて強く裕美の乳首をつまんでやった。さすがに痛そうにしていた。でも、いやだとは言わなかった。そして、『わたしたち、売春婦はね、客を怒らせると凄惨なリンチが待っていたの』と言った。

『よし、おれが仕返しをしてやる。そのグアテマラという国にマシンガンを持って行って、君をそんな目にあわせた奴を片端から撃ち殺してやる』

『あなたは弱虫だった。小学校の時から』裕美は、覚えていなくてもいいことを覚えていた。『でもあなたは、優しかった』

 裕美の言うとおりだった。たとえ、おれの憤りが本気であったとしても、どうにもならないことだった。

 結局、おれはそのときも裕美の悲惨すぎる過去に目をつむり、台に縛り付けた裕美の身体をたっぷり楽しんだ。動けない裕美を一方的に舐め続け、つながった。やってることは、グアテマラのやつらと同じだった。

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