黒い館
けいもく:作

■ 14.香子さんは妊娠?2

 お館様は、少しずつ人差し指を香子さんの肛門に沈めていきました。

 指の付け根まで入れてグリグリと三回くらい回転させて見ました。香子さんは顔をゆがめたものの黙ったままでした。

 そして人差し指を静かに抜き取り、じっと見つめてから、鼻に当てました。少しうんこの臭いがしましたが、もちろんそれは、肛門の深くに指を入れているのだから当然ことで、いやだとも汚いとも思いませんでした。

 舌を出して舐めてみると、香子さんにとっても、自分のうんこを舐められているような気がしたのか、さすがに黙って入られなくなったようで「やめて、もうせんといて」恥ずかしそうな声でと言いました。

 おやかた様は、楽しい行為を中止させようとした、香子さんのお尻を平手で三回、ペチペチとたたくと、『やはり、おれは香子にほれているな』と思いました。

『ほれているから、こんな変態行為が平気でできるのだ』と思いました。そして、『香子と家庭がもてたら』と思いました。

 でも、お館様は知っていました。

 香子さんが、いえ、香子さんだけではなく、裕美さん以外のこの館のすべての女性が、お館様に肉体を与えてくれるのは、おやかた様の人柄なりとまったく関係がないことを。

 お館様は本来が善良な性格でしたが、決して女性にもてることはありませんでした。

 本当のところ、女性たちはお館様に抱かれようとしているのではなく、自分の身体を抱かせてあげようとしているのでした。

 だから、香子さんにしてもお館様によって自分が性的に満たされたいと思ったことは一度もなく、自分の身体はあくまでも、お館様を喜ばせる手段だと思い続けてきました。もちろん、それがどのように屈辱をともなうものであっても、耐えることが必要でした。

 それは裕美さんの人を惹きつける魅力、人の心に直接語りかけるような不思議な力と、館じたいのもつ妖しい魔力、そして、館に来た時に侵されていた心の傷を回復させたいと願う女性たちの本能だったのかもわかりません。

 いずれにしろ、お館様は、与えられた女の肉体を享受していただけでした。

 だから、一本調子の催眠術まがいのもので女性たちをだまし、性的に服従を強いているとまではいえないものの、香子さんと面と向かった時、たとえば、『ふたりだけで館を抜け出し、結婚して幸福な家庭を築こう』と口説いたところで、同意してもらえるとも思えませんでした。

 もし、可能性があるとするならば、それは香子さんを妊娠させることではないかと思いました。

 今、座禅ころがしに縛られている香子さんに、お館様が自分のものを嵌め込めば、香子さんは妊娠するかもしれませんでした。いや、何回か続ければ香子さんは確実に妊娠するはずでした。

 そしてそれは、お館様にとって、たやすいことでした。

 お館様は、香子さんのお尻から下腹部にかけてゆっくりと掌を這わせ、今度は逆にと、それを何度となく繰り返しました。

 その都度、香子さんの息が少しずつ速まり、肩が震え始めると、「アァ」と喘ぐ声が漏れました。そういう性感帯の壷のようなところを執拗に刺激され続けると香子さんもたまりませんでした。

 お館様の蹂躙を受けるべき香子さんの肉体が、お館様の掌により快感の世界にいざなわれようとしていました。

 でも香子さんは、それが悪いことだとは思いませんでした。

 だから不自由な足を精いっぱいに広げ、少しでも股間に手を入れやすくしたつもりでした。

 お館様の蹂躙を受けて、あさましくもだえ狂う自分の姿を見せるのも、お館様の性的な興奮につながることを知っていたからでした。きっと、男が女の性感帯を自在に刺激しているときが、男の支配欲におんなが最も服従しているときだと思いました。

 俗にいうマグロではおやかた様に喜んでもらうことができませんでした。

 香子さんの膣に蜜をあふれさせるのも、お館様の欲望をスムースに受け止めるのに必要なことでした。

 お館様は、もう一度香子さんの膣の濡れ具合を確かめると、香子さんのお尻の上に乗りかかり、うなじに唇を付け、背中から回した手で乳房を絞るように揉みました。

 それは、別の角度から見ると犬の交尾そのものでした。

 香子さんは、すでにこの格好で何度か貫かれていました。

 でもその日は、いつものお館様にない思いつめた気配を感じました。その気配の正体に香子さんが気づいたのは、膣でお館様の精液を受けとめている時でした。

 なぜか、感触が違いました。お館様は、コンドームをつけていませんでした。

 香子さんにはお館様が単に気持ちのよさを求めて中出したのか、それともほかに 何らかの魂胆があってのことなのかはわかりませんでした。

 それでお館様に縄をほどかれたときに、「なぜ?」と聞いてみました。

 香子さんは決して怒っていたわけではありませんでした。それでも二重まぶたの目を見開いて、その眼差しを向けると、うろたえたのは心にやましいところのあるお館様でした。

「すまん。つけるのを忘れた」

 お館様にはそんな簡単に見破られる嘘しか言うことができませんでした。

「あなたがわたしに子供を産ませたいのならそれでいいのよ」

 香子さんはお館様をあなたと呼びました。

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