黒い館
けいもく:作

■ 18.愛子さんのロウソク責め3

プロポーズされた時も迷いました。でも、結婚というのは賭けでしかありませんでした。愛子さんは賭けに負けただけだったのかもしれません。

愛子さんが、幸福を実感する期間は三ヶ月もありませんでした。仮面を脱ぎ捨てた夫は、暴力で愛子さんを服従させようとしました。

取るに足りない些細なことでした。
「浴槽の中に髪の毛が浮かんでる」と言って、夫は愛子さんを足蹴にしました。転んだ愛子さんを夫は笑いました。

それから愛子さんは、毎日、浴槽を磨くように洗いました。でも日常の家庭生活で、夫が言いがかりをつけるところはいくらでもありました。見つけては愛子さんを殴りました。

だけど、愛子さんはさらに三ケ月我慢しました。

「皿に口紅が付いてる」と言って、その皿が愛子さんをめがけて飛んできた時に限界だと思いました。

愛子さんは、頼むように離婚を切り出しました。しかし、夫から帰ってきた答えは更なる暴力でした。

愛子さんは柱に縛られたまま、セックスされました。

それは、今の愛子さんが館でされていることに比べれば、他愛ないことかもしれません。でも、その時は恐怖心と屈辱感だけでした。

次の日、夫が勤めに出た隙に愛子さんは逃げるように実家に戻りました。

すばやく迎えに来た夫は、愛子さんの両親の前で畳に頭をつけて、「二度とお嬢様に対し暴力はふるいません」と言いました。

愛子さんは半信半疑だったのですが、少なくとも愛子さんの両親は信じました。

しかし、夫は愛子さんを連れ戻したとたん、態度を豹変させました。

愛子さんの顔が晴れ上がるほど殴りつけたあと、「お前は、絶対おれから逃がさない」と言いました。

その時も、柱に縛られたまま犯されました。ただし、今度は縛られたままでした。

夜明け前に我慢ができなくなり、股の下に置かれた洗面器をめがけて、愛子さんは小水をしました。でも、小水が腿を伝ってしまい、半分も洗面器に入れることができませんでした。

朝になって起きてきた夫は、畳に小水を漏らしたという理由で、気が済むだけ愛子さんの頬を平手打ちしました。そして愛子さんを柱につないだまま、出社してしまいました。

愛子さんは水も飲めませんでした。まる一日以上裸で柱に縛られていては、悔しいとかいう以前に、このまま殺されるかもしれないと思いました。

再び実家に戻った時、連れ戻しに来た夫は、愛子さんの両親にも暴力的な性格を隠しませんでした。

驚いた両親は、警察官を呼びました。夫はただの夫婦喧嘩だと説明しました。

警察官は、夫婦喧嘩の仲裁に呼ばれたことが迷惑だと思ったのかもしれません。

「まあ犬も食わないと申しますからね。仲良くやってくださいよ」
それだけのせりふを残して去っていきました。

このままでは両親にも危害が加えられるかもしれないと思いました。実家も安全でなくなった愛子さんが、逃げてきたのが館だったのです。

しかし、やっとの思いで逃れてきた、愛子さんが見たものは、裸にされてお館様に鞭で打たれている裕美さんと香子さんの姿でした。それは、きっと愛子さんが夫から受けたものより、さらに激しい暴力でした。愛子さんが絶望的な気持ちになったのはいうまでもありません。

でも、お館様は、「君には何もしない」と言いました。

裕美さんにも香子さんにも異口同音に言われたことは、「愛子さんは、好きなようにして好きなだけいればいい」でした。

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