黒い館
けいもく:作

■ 21.亜紀ちゃんの覗き趣味2

『こんなにも唇や舌で男性器を刺激することに長けた処女は少ないのでは』と一人で考えて、苦笑しました。

男が、女には最後の一線さえ越えなければ、何をしても良いと考えているなら、それは、間違いだと思いました。中途半端ないたわりは、かえって苦しめる結果になりかねませんでした。

ひとつ、そこに勘違いがあるとするなら『お館様は今までに大勢の女性の処女を奪ってきた』と思っていたことでした『裕美さんや香子さんもお館様の手で女にされてきたんだ』と思っていたことでした。

だからお風呂では、いつもより入念に身体を洗い、愛子さんにルージュの塗り方を教えてもらい、お館様はまだ気付いていなかったにせよ、首筋にオーデコロンをふってきたのでした。

もしも、抱かれた場合に、たとえお世辞だとしても「亜紀の処女は誰よりも気持ちがよかった」のひと言くらい欲しいと思ったからでした。

でも実際のお館様は、処女の女性なんか相手にしたこともありませんでした。

もちろん、多くの初めての女性と交わるのは、男のステータスだと思っている人もいるかもしれません。でも、お館様は亜紀ちゃんの処女を奪うことにある種の罪悪感を持っていました。

それに、わざわざ亜紀ちゃんをものにしなくても、お館様の性欲はほかの女性で十分に満たされていました。むしろ、処女のままの亜紀ちゃんを自分の女として残しておきたかったのかもしれません。

問題があるとすれば、亜紀ちゃんから発する女としての魅力でした。まだ香子さんが来るまで一時間以上ありました。

お館様はテレビのチャンネルを換えて、自分と亜紀ちゃんの気を紛らわせようとしました。ただ、山間部でありすぎたため、換えられるチャンネルも限られていました。見たいお笑い番組などはありませんでした。そんなことは、チャンネルを触る前からわかっていました。お館様はテレビのスウィッチを切りました。

そして『おれは動揺している』と思いました。その動揺を亜紀ちゃんに見透かされてはなりませんでした。

ふたりの位置関係からして不自然でした。亜紀ちゃんは机の椅子で、お館様はベッドに向き合う形で腰掛けていました。立ち上がらなければ、手が届かない距離でした。

館の女性ならベッドのすぐ横に座り、お館様がいつでも身体のどの部分でも触れるようにしておくべきでした。それくらいのことは亜紀ちゃんでも知っていました。

「そちらに移ってもいいですか?」

「うん」どことなく投げやりな返事でした。

亜紀ちゃんは寄り添うように座りました。口から自然に吐き出される、甘い息までがお館様を誘惑しているようでした。

お館様は肩を抱いて乳房に耳を当てました。ブラウスのボタンに手をかけながら、亜紀ちゃんの身体をベッドに寝かせていきました。手際よく、亜紀ちゃんの衣類はすべて剥ぎ取られていました。

亜紀ちゃんは、股間に生えた陰毛も隠そうとしませんでした。むしろそこを開いていました。そことおっぱいは、お館様が亜紀ちゃんの身体を楽しむところでした。この時の亜紀ちゃんの手は、腰の下で組まれていました。あるいは、いつも縛られて責められている香子さんの気持ちに近づこうと思ったのかもしれません。

お館様はなぜているだけで自然に抜けた陰毛を、わざとらしく亜紀ちゃんに見せ付けました。亜紀ちゃんを恥ずかしがらせて、楽しもうという魂胆が見えました。

だけど、亜紀ちゃんは笑顔で応じました。開いた股間を閉じることもしませんでした。お館様が、自分の身体を好きなように楽しめばいいんだと思っていました。

「男はね、腰を振って自分で昂ぶってからいくんよ」真菜ちゃんが、言っていました。

でも、亜紀ちゃんは『お館様のものが自分の中に入ってきた時、しばらくは、じっと動かないで欲しい』と思いました。その間に子宮を犯しているそのものの存在を実感しようと思いました。

そういう意味では、真菜ちゃんは、とことん情の絡んだ恋愛やセックスを経験したことがないのかもしれません。話すことが写実的であっても、心の機微に欠けるような気がしました。

お館様は、亜紀ちゃんの股間に覆いかぶさるようにして、舌を這わせました。亜紀ちゃんの手はお館様の頭を押さえていました。

お館様は、ふと『おれはこのまま亜紀を犯してしまうかもしれない』と思いました。

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