黒い館
けいもく:作

■ 23.亜紀ちゃんの乳房4

亜紀ちゃんには、香子さんのしていることが、ようやくロウソク責めから解放され嬉しさからか、たとえば、責められた後は責めてもらったことへの感謝を込めてキスしなさいといったふうに強制されてのことなのか、わかりませんでした。

だけど後者のようなことは、裕美さんもお館様も嫌っているはずでした。館は女性が美しく輝くところであって、意思をもたない奴隷をつくるところではありませんでした。

お館様は香子さんの乳房をつかんでも、依然としてロウが付いて舐めることができませんでした。お館様は、少し寂しそうな顔をしました。亜紀ちゃんは、自分の乳房が求められるはずだと思いました。

だけど、お館様は香子さんを抱きながら「風呂に行こうか?」と言いました。なるほど、風呂で洗えば香子さんの乳房もきれいになるはずでした。

それは、亜紀ちゃんの乳房も必要がなくなるということかもしれませんでした。

「そうね」

「亜紀も一緒に行くか?」

「わたしはいい。後でひとりで行くから」

亜紀ちゃんは、本当は一緒に行きたいと思いました。

風呂の中で香子さんがお館様に何をされるのか見てみたいと思いました。香子さんの身体はお館様が洗うにしても、お館様の身体は誰が洗うのだろうと思いました。あるいは、香子さんが、不自由な身体で全身を舐めるのでしょうか。

でも、なぜかこれから先は割り込んではいけない世界のような気がしました。やっと、ロウソク責めから解放された香子さんが、肩で息をしながらお館様に身体を預けていった姿、それをしっかり抱きとめ唇を重ねていった姿に、ふたりだけの愛情を感じ取ったからかもしれません。

「じゃあ、行こう」

お館様は香子さんの肩に手を乗せ、ドアのほうへ歩き始めました。香子さんも後ろ手に括られた縄は解いてもらえませんでしたが、肩を寄り添わせるようにして、ドアが開けられるのを待って出て行きました。

ひとり部屋に残された亜紀ちゃんは、息を整えるように、大きな深呼吸をしました。

手には、香子さんがくれたコンドームが握られていました。

「こんなもの、もういらないわ」と呟いてゴミ箱に捨てました。

生理中の香子さんには不要なものでした。風呂から戻ってきたお館様が犯す女は、亜紀ちゃんではなく香子さんでした。もちろん、どんなふうに犯すのかには興味がありました。

愛し合う夫婦か恋人同士のように抱くのか、縄で縛ったまま、香子さんに屈辱的な体位を求めるのか、あるいは、さらなる別の暴力で香子さんを泣かせながら犯すのかは、わかりませんでした。それはお館様が決めればいいことでした。

いずれにしろ、亜紀ちゃんはこれ以上、このふたりを覗いてはいけないと思いました。

机の上にあった紙に鉛筆で走り書きをしました。

『ありがとうございました。仲むつまじく、お幸せにね』と書いて、大きなハートマークを入れました。

これを見たふたりは、一瞬、噴出してしまうかなと思いながら、静かに部屋を出て行きました。

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