狂牙
MIN:作
■ 第2章 ゲーム1
−第1節−ディフェンス:良顕
俺はジッとモニターを見詰め、この悪魔のような女の行動を見詰めていた。
今の俺の気持ちは、心情的にも状況的にも最悪だった。
正直言って、胸くそが悪くなる程、俺は劣勢に立たされている。
マジでヤバイ。
打つ手が全く無いのだ。
そもそもこのゲームは、ディフェンスにまわった者が勝つ事は殆ど無い。
そう言うゲームだった。
俺はこのケタ糞悪い組織に入って、2年間で10回のゲームを行った。
その中でも、このゲームは最悪の部類だ。
もともと、この組織のゲームの内容は、人を陥れ破滅に導く類のモノだが、このゲームはその勝敗が[ターゲットの自殺]で決まる。
ゲーム名[Suicide.]それがこのゲームの名前だ。
[ターゲット]が自殺するようにし向ける為には、あらゆる手段が取られ、俺は決められた期間、その死を止めれば勝ちとなる。
だが、俺はルール上直接[ターゲット]に接触出来ないし、俺の息の掛かった者も接触させられない。
ハッキリ言ってこのゲームを挑まれた時点で、俺は今までで有り得ない程の絶体絶命の窮地に立たされていた。
この組織に入って2年、やっと徳田に手の届く所まで来た。
その矢先の出来事だった。
しかめ面でモニターを見る俺の横で、一切の表情を消した整った顔から
「相変わらず、えぐいやり方…。何人も廃人にしたのに、まだやってる…」
ボソリと低い声が漏れた。
俺の横に座る、ゾクリとする程整った美貌の口から漏れた物だ。
長い黒髪と透き通るような肌、スラリと通った鼻梁にキリッと鋭い目が印象的な、知的な美貌。
スタイルはモデルも裸足で逃げ出しそうな程、均整が取れた蠱惑的な身体だ。
一目見たら忘れられない[美人]の欠点は、男だという事と常識が無いぐらいだろう。
俺はこの2年で腐れ縁となった、この天才医師の呟きに
「何だ…。知り合いか?」
思わず問い掛けた。
晃は少し表情に暗い影を浮かべ
「昔…ちょっとね…」
ボソリと口の中で噛みしめるように答えると、何かを振り払うように頭を左右に軽く振って、スッと顔を持ち上げ
「この人達、薬で脳と身体をいじられ、強力な暗示を掛けられてるわ。多分抗うつ剤…精神安定系の薬物で、まともに思考が働かなくされて、感覚神経を敏感にする薬物が使われてる…。単純に言うと意識があるままで催眠術を掛けられてるような物よ…。少しだけど良ちゃんの洗脳に似てる所があるわ…」
顔を覆っていた影を払いのけ、モニターを見詰めて俺に説明を続けた。
少し饒舌なのは、俺に詮索させない為だろう。
俺は晃の表情の変化に気付かない振りをしながら
「俺の洗脳? …」
訝しそうに問い掛ける。
「そっ、良ちゃんが以前やったでしょ? 乙葉や和美と千恵にやったヤツ…」
晃はボソボソとモニターを見ながら、呟くように説明した。
その晃の顔がハッと強張り、弾かれたように俺の方を向くと
「あ、ゴ、ゴメン…」
顔を少し引きつらせて、頭を下げた。
俺はそんな晃の謝罪を鼻で笑うと
「気にするな、いつまでも引き摺ってる訳じゃ無い…。それに、今はそれどころじゃないしな…」
軽い口調で答えた。
だが、俺の頬がピクリと跳ねたのを晃は見逃さず、言葉を探している。
俺自身、咄嗟に2人の名前を聞いてこれ程反応するとは思っても居なかったが、晃に言った通り今はそれどころじゃない。
このまま行けば、間違い無く乙葉や優葉、それに今、俺の手足となって働いて居る、22人の被害者と15人の奴隷達まで、また地獄のような生活を強いられてしまう。
今はそんな瀬戸際だった。
俺はサイドテーブルに手を伸ばし、ロックグラスに注いだバーボンを口の中に放り込んでグラスを戻す。
サイドテーブルにグラスを置くと、スッと白いしなやかな手が空いたグラスに伸び、同じ酒が満たされた新しいグラスと取り替える。
絶妙のタイミングで差し出されたグラスに手を伸ばし掛けると、俺は視線を感じて顔を上げた。
俺が視線を上げると、乙葉が心配そうな目をしながら俺を見ている。
「どうした?」
俺は乙葉に問い掛けると、乙葉は目を伏せて
「最近のご主人様のお召しになる、お酒の量が心配で…」
俺の最近増えた飲酒量を案じている。
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