狂牙
MIN:作
■ 第2章 ゲーム9
ゲームが終わって俺はbSに昇格したが、心の中には怒りしか浮かんでこない。
だが、俺はその怒りを真に向ける相手を、思わぬ所で知った。
事務手続きを終えた由木が、俺の元に現れ
「叶様…[キリング・ドールズ]に会われたそうですね…」
静かに問い掛けてきた。
俺は由木の言ってる言葉の意味が分からず
「何です? その[キリング・ドールズ]って…?」
問い直すと、由木は大きく溜め息を吐き、首を左右に振る。
俺はその大仰しさに訝しんだ視線を向けると
「叶様…、この組織をお嫌いなのは、十分に存じております。ですが、最低限の情報はお取り下さい。でないと、命が幾つあっても足りませんよ…」
由木は溜め息混じりに、俺に話し始めた。
[キリング・ドールズ]とは現在国内でbPの連絡員であり、天童寺に仕えているあの美女達の事だった。
年齢は27歳で、赤ん坊の頃から組織に殺人技術を叩き込まれた、生粋の殺戮者である。
1人1人でもその技術は達人クラスだが、一卵性双生児の2人が組んだ時、その攻撃は不可避で、彼女達に狙われ生きていた者は只の1人も居ない。
初めての殺人は5歳で、それ以降22年間で1,000人を越える人間が、記録に残るだけで、彼女達の手に掛かっている。
実力、実績供に他の追従を許さない、姉妹であった。
俺は天童寺に付き従っていた、女性達の美貌を思い出しながら、由木の言葉に頷いた。
俺は天童寺と会った時の事を由木に話すと、由木は溜め息を吐きながら
「叶様…、和美様、千恵様、秋美様の3人が、お亡くなりになったのは、偏に叶様の責任で御座います…」
俺に呟くように話し始めた。
俺は、由木の言葉に苛立ちを覚えたが、由木は比喩や嫌味で俺に物を喋る事は無い。
冷静になって、由木の言葉に耳を傾けた。
「天童寺様が仰った事をもう一度良く思い浮かべて下さい。私に説明して下さった事の中にも、答えは御座いますよ…」
由木の静かな声に、俺は記憶を探る。
そして、天童寺が返る間際、俺に告げた言葉を思い出した。
「[落とし穴は至る所に開いて居るぞ]…、奴はこの事を知っていたのか…。本部が、こう言う裁定を俺に下す事…、いや、秋美や千恵、和美が相次いで捕まったのは、その情報が漏れたからで…、この筋書きは決まっていたのか…」
俺の呟きに、由木が静かに頷く、だが、その時の俺はそんな由木の態度も目に入らなかった。
「天童寺はこうなる事を知っていた。だから、あのタイミングで店に現れ、俺に釘を刺して行った。なのに、俺はそれに気付かず、何の手を打つ事もせずに、只漫然とゲームを続けた。人の命が掛かった、腐ったゲームを…。俺は何をして居るんだ…。和美や千恵、秋美を殺したのは…俺自身じゃないか…」
それに気付いた俺は愕然とし、自分の愚かさを痛感した。
そう、真に怒りを向けるべき相手は、他ならない俺自身だったのだ。
俺がそこまでを語り終えると、晃はようやく頭を持ち上げ、涙に濡れた目を拭い
「で、でも…、結局は私の薬のせいで、天童寺に目を付けられたんでしょ…。そう考えたら、やっぱり私のせいよ…」
俺に告げる。
俺は、フッと晃の言葉を鼻で笑い
「まぁ、要因の一つではあったかもしれんな…。だが、原因じゃない…。あいつは、遅かれ早かれ俺に勝負を挑んでいたよ。じゃ、なきゃ説明の付かない事が、まだ2・3個有る。兎にも角にも、俺はあいつに気に入られたようだ…。迷惑な話だが、仕方が無い…」
晃の言葉を否定してやる。
晃は俺の言葉で目をウルウルと滲ませて
「良ちゃ〜ん…。好き! 大好き〜! 絶対付いていく! 一生付いて行く! どんな命令でも、どんな指示でも、良ちゃんの言う事なら、何でも聞く。だから、天童寺に負けないで!」
晃はソファーから転げ降り、俺の足の間に身体をねじ込むと、腰に両手を巻き付け抱きついてきた。
俺は晃の頭を撫でてやろうと、右手を持ち上げたが、その手は晃の頭に降りる前に、固く握り込まれ拳を形作る。
俺はその握った拳を晃の頭の頂点[聖門]と呼ばれる、頭蓋骨の亀裂が集まる部分に叩き付けた。
「あだぁ! い、痛い良ちゃん! 脳みそが崩れる!」
晃は俺に殴られた頭を抱え込みながら、悲鳴を上げる。
「おい、お前はどうしてそうなんだ…、何で直ぐにそっちに走る! ったく、ちょっと気を許すと直ぐに調子に乗りやがって…」
俺は呆れた声で、晃を怒りながら、ウンザリとした。
晃はどさくさに紛れて、俺の股間に顔を埋めようとしていたのだ。
俺は、あれ程泣いていた顔が、一瞬で欲情に染まるのを決して見逃さない。
こいつは、全てに於いて性欲が先走るのか、一瞬の油断も俺に許さなかった。
その感情の変化は、何ら計算した物じゃなく、全てナチュラルだからタチが悪い。
晃は本気で数秒前まで、自分の責任を感じ、俺に謝罪を込め、抱きついてきていた。
だが、その絶好のポジションに、コロリと目的を変え、長年の思いを果たそうとしたのだ。
晃は頭を抱え込み、涙を湛えた恨めしそうな目で俺を見詰めていたが、乙葉と優葉の視線を受けて、ギクリと表情を引きつらせる。
乙葉は困ったような視線で、優葉は唇を尖らせ、晃を見詰めていた。
乙葉は晃に恩を感じているから、余り晃に強く出る事は無いが、それでもこの視線は怒っているし、優葉は自分の楽しみを邪魔された事に、素直に腹を立ていた。
晃は、この2人が怒った時の恐ろしさを熟知しているから、スゴスゴと尻尾を丸め、ブツブツ言いながら自分の席に戻って行った。
俺は苦笑いを浮かべ、視線をモニターに向けると、現状を分析し直す。
画面の中の魔女は、忙しく動き回り焦点の合っていない目の被害者達に、快楽を叩き込んでいた。
俺は被害者が変えられて行くのをただ、指を咥えて見ているだけしかできない。
この被害者達は、これからまだまだ姿を変えられて行く。
俺には、それを止める権利を奪えなかった。
このゲームの様々な権利は、最初に提示するチップの金額が基本となり、その後プールされた金額で変わる。
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