狂牙
MIN:作

■ 第2章 ゲーム25

−第3節−エキストラ:川原

 最近の俺は、妙に女にツイてる。
 どう言う訳か、いい女が擦り寄って来やがるぜ。
 始まりは、あの女だ。
 家の近くの得意先に顔を出した後、近所のスーパー近くを歩いている時に、フッと目に止まった水商売風の女。
 思えば、アレが始まりだったな。

 最初、俺がその女を見かけた時は、大きめのタンクトップとピチピチの超ミニスカート姿だった。
 大きめのサングラスと茶髪のロン毛に、真っ赤なルージュだけの化粧っ気の無さが、その女を何処か出勤前の商売女に見せた。
 だが、俺の目を引いたのは、その女の格好だけが原因じゃなく、妙に引っ掛かる物があったからだ。
 遠目で女を品定めすると、女は服の上からでも判る程、スタイル抜群だった。
 俺は生唾を呑み込み、思わず付いて行って暫く見ていると、俺が何で引っ掛かったのか気が付いた。
 女の振る舞い方だ。
 身体を起こしたり、捻ったりした時に、見せる挙措がすれっからしの女のそれじゃ無く、上流の家庭で身に付いた上品な動きだったんだ。

 俺はその時ピンと来た。
[この女は変装して、露出してるんだ]直ぐに、女の格好の意味が分かった。
 俺は周りに気を配りながら、女の前に回った。
 俺が女の前に回ると、一瞬ギクリと顔を引きつらせた。
 女が俺の真正面に居て、俺を真っ直ぐ見てたからだ。
 女は俺の前でピタリと動きを止めて、俺をジッと見ている。
 流石に俺も[しまった]と思ったが、女は俺の予想を超えた行動を取った。

 女は何を思ったか、ユックリとしゃがみ込んで、買い物篭を脇に置き、膝頭を開き始めた。
 俺が驚いて見ている前で、女は俺にスカートの中身を見せたんだ。
 俺はそれを見て、呆気に取られた。
 女は上半身同様、下半身にも下着を着けていなかった。
 薄暗がりの中でも、ハッキリと女の陰毛が確認できた。
 俺の理性は正直この時点で、プッツリと切れてたが、流石にその場では何も出来なかった。
 俺を意気地無しと罵るなら、自分の家から1q離れてない、かみさんも良く来るスーパーで、押し倒してみろ。
 それが出来る程、俺は獣じゃないし、社会的立場も有る。
 俺は女の姿を目に焼き付けて、逃げるようにスーパーを出て行った。

 俺はその日、家に帰っても、次の日、会社に居ても、その女の事が頭から離れなかった。
 1週間は仕事の忙しさにかまけて、女の事を頭から追い出そうと躍起になった。
 だが、それは無理だった。
 俺は女を見かけて1週間後、用も無いのに同じ時間帯に、又そのスーパーに立って居た。
 俺はスーパーに入ると、直ぐにその女を見付けた。
 俺は女を見付けたは良いが、正直声を掛けるのに躊躇った。
 女が、スーパー中の視線を1人で集めていたからだ。

 女の格好が、1週間前とはかなり違っていた。
 タンクトップのサイズはアップし、ピチピチの超ミニスカートはバックスリットが入って、犬の尻尾が揺れている。
 それをファッションと言って良いのか、女の首には犬の首輪まで嵌っていた。
 そんな女の姿に、視線を向けない者は誰1人居らず、声を掛ければ俺まで注目を集めちまう。
 衆目の中で、声を掛けるのは完全に、自殺行為だった。
 俺は呆然としながらも辺りを見ると、見た顔がチラホラと女を凝視していた。
 俺の近所の自治会で、お馴染みの顔が情け無い顔をさらしてる。

 俺はギャラリーのお陰で、少し冷静さを取り戻し、女を遠目で観察して、1人になるタイミングを見計らった。
 すると女がスーパーを出ると、人目を避けるように角を曲がった。
 俺の眉根がその動きを見て、引き寄せられる。
(ん? 人目を集めて露出してた女が…、スーパーを出た途端に人目を避けた?)
 俺はこの行動で、女が露出を望んでいない事に気が付いた。
 そして、直ぐに浮かんだ事は、第3者の存在だった。
(ちょ、ちょっと待て…。これは、ひょっとして…[プレー]か…? こいつは、誰かに強要されてる…? いや、だけどそんな話がゴロゴロと転がってるか?)
 俺は自分の思った事を否定しながら、女の後を追った。

 俺が角を曲がると、都合の良い事に俺の目の前には、女の後ろ姿しか見えない。
 俺は直ぐに自分の背後に意識を向けたが、俺の背後にも誰も付いて来ては居なかった。
 俺は直ぐに大股で女に後ろから忍び寄り、背後に意識を向けながら、女の肩に手を伸ばす。
 女の左肩に俺が触れた瞬間、女は右側にいる俺の方を向き会釈した。
 そして直ぐに左側を向き、路地の方向に歩いて行く。

 俺はこの行動で、一旦否定した疑念を更に強める。
 女の行動は、通常なら有り得なかった。
 俺が背後から近寄っていて、右側に立って居るのを知らなければ、女は先ず俺が触れた左側を向く筈だからだ。
 躊躇いも無く、俺の方を向いたのは、俺が右側にいる事を知っていた以外考えられない。
 俺は自分の周囲をユックリと見回し、うっすらと感じた第3者の姿を探す。
 だが、俺の視界の中に、今現在女以外の人影は無い。
 俺は何か[引き返せない道]を感じながらも、女の向かった路地に入って行った。

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