狂牙
MIN:作

■ 第4章 回り始める舞台3

◆◆◆◆◆

 乙葉は、その異常に直ぐに気がついた。
 それは、朝のシステムチェック時の事だった。
 乙葉はいつものように、警備や、監視情報に目を通し、通信履歴をチェックして、それを見つける。
(何? この強い信号…。発信元はこの建物の中だわ…。あれ、でも共鳴して、外には出て行ってない…。やばい! これ、シグナルだわ! えっと…、発信時間が07:00だから、今から30分前。場所は…G通路!)
 乙葉は直ぐに6時59分のG通路の監視映像をモニターに映した。
 そこには、千佳と優葉が紙袋を挟んで、笑い合っている。
 優葉は、千佳から犬の尻尾のようなものを受け取り、驚きながらパタパタと降っていた。
 そして、モニターの時刻が07:00を示した瞬間、画像にノイズが走る。
(これだわ!)
 乙葉は、直ぐに携帯電話を取り、優葉に連絡を入れた。

 少しのコール音の後
『お姉ちゃん、どうしたの?』
 優葉が不思議そうな声で、乙葉に問いかける。
「あなた、何貰ったの! それ、発信機よ! 直ぐにここに持って来て!」
 乙葉は携帯電話に鋭い声で、喚き立てた。
 電話の向こうの優葉は何を言われたのか理解していないが、乙葉が激怒している事だけ理解し
『う、うん。解った。直ぐ行く』
 単語を並べるような返事を返し、通話を切った。

 通話が切れた携帯電話を、凄い視線で睨みつけている乙葉に
「朝っぱらから、何を怒鳴ってるんだ…」
 良顕が上半身裸で、タオルを肩に掛け問い掛けて来た。
「あっ、ご主人様。お早う御座います」
 乙葉は蒼白な顔を良顕に向け、深々と頭を下げて事情を説明した。
 乙葉の話を聞いていた、良顕の表情が忽ち、鋭く変わる。
 乙葉が話し終えたタイミングで、優葉がコントロールルームに現れ
「こ、これ…」
 息を切らせながら、可愛らしい犬の尻尾がついた、アナルバイブを差し出した。

 良顕はそれを床に叩きつけようとしたが、嫌な予感がして思いとどまり、直ぐに工作室に向かった。
 良顕はマテリアル内にも、かなり敵が多いため、爆発物など平気で送られてくる。
 それを検査、解体する部屋が建物内に作られていた。

 良顕はX線とCTスキャンを用い、アナルバイブの概要を調べたが、どちらもジャミングが掛かっていて、内部構造が判断できない。
 良顕は、舌打ちしながら、爆発物処理室にアナルバイブを運び、レーザーで分解する事にした。
 この部屋は、20pのコンクリートが鉄、鉛、アルミの金属層を挟んだ構造で、ガラスも多重構造ガラスを使用している。
 例え10sのコンポジション爆薬が爆発しようとも、ビクともしないよう設計されていた。

 部屋の外から、ロボットアームでレーザー照射機を操り、縦割りにし始める。
 1/3程切った時、乙葉が突然声を上げた。
「あっ、今までの10倍の電波出力です」
 良顕がその声に振り向くと、ロボットアームが完全に停止する。
「あっ…。で、電磁波が…」
 乙葉が告げると、全ては終わっていた。

 ロボットアームを代え、完全に切断すると、その構造に驚いた。
「おい、これえげつ無いな…。普段は、決められた時間に、強い通信波を出すだけだが、壊された時には10倍のシグナルを出して、電磁波で周りの精密機器を破壊するように成ってる…。コントロールルームで、壊さなくて正解だった…」
 良顕が溜息を吐くと、直ぐに何かを思い出し
「おい、優。これ千佳に貰ったって言ったな? 千佳はコレをどこで手に」
 良顕がそこまで問い掛けた時、けたたましい、アラームが鳴り響いた。
「今度は何だ!」
 良顕が怒鳴りながら、コントロールルームに走ると、遅れて乙葉と優葉も走り出す。

 良顕がコントロールルームに入ると、メインモニターに[Personal Data Hack Lv.3]の赤い文字が明滅している。
「えっ! どう言う事?」
 乙葉が良顕の背後から驚きの声を上げ、急いでコンソールシートに座った。
 乙葉が素早く、キーボードを叩き、状況を把握し始めるが、乙葉の見ている目の前でLv.が3から4に変わる。
「何? こいつ…。いや、入って来ないで、中に…それ以上は…、いやぁ〜っ」
 なんとも切ない声を上げながら、ハッカーからデータを守ろうとした。

 すると、次の瞬間、乙葉の顔が安堵を浮かべ、直ぐに酷薄なものに変わる。
「ふふっ。調子に乗るからよ…、今度は私の番よ…」
 さっきの切羽詰った表情から一転、女王様の顔で、キーボードを叩き始めた。
「ほらほら、ここはどう…、これが、あなたのメインシステム? もっと見せてごらん、あら、嘘つきね…。嘘を吐く子には、ほら罰を上げましょ。まだ、まだなの? もっと良くお見せなさい…。おいたが過ぎる子には、きつ〜い罰を上げるわよ。ほほほほっ」
 妖しい声で、ブツブツとモニターに話し掛け、相手のデータを次々にクラッシュさせる。
 完全に落ち着きを取り戻し、攻勢に出ていた乙葉が
「あっ、あれ?」
 素っ頓狂な声をあげ、首を傾げ
「あっ! 逃げられた!」
 大声で叫ぶ。

 良顕には、乙葉のやっている事が全く理解出来ず、真剣な顔で見詰めていた首を、不思議そうに捻った。
「あ、あの…、ご主人様…。逃げられてしまいました…」
 乙葉は首を背後に回し、良顕の顔を向いて、泣きそうな表情で呟いた。
 良顕は溜息を一つ吐き
「一体何が有ったんだ?」
 優葉に問い掛けると
「はい、千佳ちゃんの個人情報が、盗まれました。Lv.4のマテリアルに関する情報は、追いかけている間に、クラッシュさせましたが、Lv.3の偽造以前の個人情報が持っていかれました…」
 優葉が済まなさそうに、良顕に告げる。

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