狂牙
MIN:作

■ 第7章 それぞれの未来(さき)8

 良顕の元に集められた奴隷達は、全て職を持たせた。
 社会適合が出来る者は、日本国内で忠雄達に任せ、それ以外は要塞島内で何らかの職を持たせる。
 そして、エージェントや勤務員達と自由に交際もさせ、新しい人生を与えた。
[マゾにはマゾの幸せが有る]と言う、天童寺の言葉がこれで少し理解出来るようになった。
 要塞島内で働く、女達は皆美しく、晴れ晴れと働いているからだ。
 性癖を満たし、理解する相手が居て、その者と共に生きる事を、心から喜んでいる。
 例え、そこに加虐が有っても、それはお互いの愛情表現なのだと、思えるようになっていた。
 だが、それはあくまで、お互いの納得尽くの話で、[マテリアル]の行為は、絶対に許せなかった。

 良顕は、軽い口調で再会を約束し、大きく一つ伸びをする。
「お電話、終わりました? 琴葉がむずがって…。また、お仕事ですか?」
 乙葉が赤ん坊を抱いて、良顕に問い掛けると
「おう、ちょっと行ってくるわ。今度はローマだ…」
 良顕は振り向きながら立ち上がり、乙葉に軽い口づけをすると、赤ん坊の頬をプニプニと突き
「琴葉行ってくるぞ〜…。お利口にしてるんだぞ」
 デレデレの顔で、赤ん坊に話す。
 赤ん坊がご機嫌に成って笑い出すと、これでもかと良顕の鼻の下が伸びた。

 良顕が赤ん坊を覗き込んでると
「ご主人様、今度はローマですか」
 魔夜が男の赤ん坊を連れて、近付いて来る。
「おう、良介ご機嫌如何かな? お利口にしてるんですよ」
 良顕は、間延びした顔のまま、直ぐに魔夜の抱く男の子を、のぞき込み話し掛けた。
「向こうで、余裕は何日有ります?」
 魅夜が直ぐ後に、別の男の子を抱いて現れる。
「おう、宗顕。ちょっと留守にするけど、良い子にしてろよ」
 男の子の頬を突っつきながら、ニコニコと話し掛けた。
 良顕は、3人の赤ん坊に話し掛けるだけで、一向に魔夜達の質問に答えない。
 魔夜と魅夜が赤ん坊の名前を決めた時、自分と宗介の上下を入れ替えた名前に、散々文句を言った良顕だが、今ではお気に入りで仕方が無い。

 呆れ顔の2人に、アリスが近付き
「はいはい、ママ達はお仕事だから、アリスママの所に来ようね」
 アリスが良介と宗顕を抱き上げる。
「「アリス、暫くお願いね」」
 魔夜と魅夜がアリスに頼むと
「はぁ〜あ…。ご主人様が、こんなに子供好きなんて…。私も、あんな薬手を出すんじゃなかったな…」
 アリスが溜息混じりに、2人の赤ん坊をあやす。
 この頃のアリスは、3人の赤ん坊と暮らしている為、精神疾患もなりを潜め母性に目覚めていた。
 大好きだった幼児プレイも、良顕に要求する事は全く無くなり、大人の女として奉仕するようになっている。

 そんなリビングに、荒い息づかいで1人の女性が入って来た。
「お、お姉ちゃん…。美加園先生に連絡して…、お腹の中で…あたたたたっ」
 臨月のお腹を抱え、優葉がリビングに入り顔を歪める。
「もう、優ちゃん寝てなさいって。無理するから暴れるのよ」
 乙葉が心配そうに優葉に近付くが、それより以前に良顕が移動し
「優葉、もう産み月何だから、無茶は止せ。お腹の子に障るぞ」
 優葉を心配そうに抱き上げた。
「あふぅん…ご主人様優しい〜っ。こんなに、優しいんだったら、もう少し入っててくれないかな…」
 優葉が甘えて、鼻を鳴らしながら頭を擦りつける。

 その優葉の頭を乙葉がポカンと一つ叩き
「馬鹿言ってないで、早くベッドに行く! お姉ちゃん怒るわよ」
 リビングの入り口を指さし、捲し立てると
「あ〜ん、ご主人様〜。お姉ちゃんが打った〜」
 更に甘えようとする。
 良顕が乙葉を止めようとするより早く
「優葉ー!」
 乙葉の鋭い声が、優葉を震え上がらせ
「はい〜っ! 今帰ります〜。ご主人様行ってらっしゃいませー」
 脱兎の如く逃げていった。
「あっ、馬鹿! そんなに走っちゃ駄目…。もう、本当にあの子は…」
 乙葉は溜息混じりに、優葉の消えた後を見詰め、振り返って
「ご主人様、後の事はお任せ下さい。魔夜、魅夜、貴女達も十分気を付けてね」
 良顕達に挨拶をする。
 それは、館の主の伴侶として、堂々とした風格すら漂うものだった。

◆◆◆◆◆

 3人がローマに着くと、1人の男が出迎える。
 4人は車に乗り込むと、ローマの市内に向かって走り出す。
「良。旅はどうだった?」
「旅って程でもないさ、いつものように、味気ない…」
「こんな美女2人侍らせてか?」
「けっ、抜かせ。両方とも、お前の名前を聞いただけで、ウキウキしてる」
 良顕の言葉に、助手席に座ったロングヘアーが
「今回は、私がお相手致しますわ」
 ニッコリと微笑みかけると
「馬鹿か、俺がお前を間違える訳無いだろ。ったく、宗顕は元気か?」
 宗介が、呆れた顔でロングヘアーに話し掛けた。

 すると、ロングヘアーは髪の毛を掴み、ずらしながら満面の笑みで
「やっぱり、騙せなかった〜。宗様ごめんなさい〜。お姉ちゃんが、どうしても、やれって言うの〜」
 運転席に座る宗介の首にしがみつき、凄まじい勢いで甘える。
「全く…、これが武道の達人なんて…世も末だわ…」
「加えて、お前の奴隷だがな…」
 良顕が付け足すと、宗介は再び肩を竦めた。
「ねぇ、宗様〜…。早く、ホテルに着かないの…私…、良様独り占めに出来ると思うと…もう、堪らないの…」
 後部座席に座って居た魔夜が、身をくねらせて良顕にしなだれかかり、甘い声で宗介に告げる。
「はい、残念。今日は宿についても、直ぐには何も出来ない。昌聖からの預かり物が有るからな」
 宗介が告げた瞬間、車内の淫風がガラリと変わった。
「昌聖様の新作」
「今度は、どんな風に改良されてるんだろ」
 2人から、身も凍るような殺気に近い雰囲気が流れ出す。
 良顕はその変化を見て、確実に1年前より殺傷能力を飛躍させた、2人の本性を鼻で笑う。
(淫乱な殺戮者か…。こいつらも、狂ってる…。だが、俺も狂ってるのかな…。この状況を当たり前だと感じてる…。[仕方が無い]は使いたくないが、狂人共の相手だ、狂うしかないか…)
 自虐気味に考えながら、バックレストに頭をもたせかける。

 良顕達の牙は強大に成り[マテリアル]の内部を食い荒らしながら、弱体化させた。
 だが、まだまだ、その全体を食い潰す迄には至らない。
「長いな…」
 ボソリと良顕が呟くと、不意を突かれた魔夜と魅夜が
「「えっ」」
 短く問い返す。
「俺らで終われなきゃ、良介と宗顕に任せるしか無ぇよ…。優さんの所も、昌聖の所もちゃんと血は繋がってる。俺らの狂った牙を引き継がせるのは酷だけど…。誰かがやらなきゃな…」
 宗介は良顕の呟きに的確に答えた。
 良顕は、驚きながらルームミラー越しに宗介を見ると、ルームミラーに映る宗介の目線と合う。
「違いない…」
 良顕はその目線に笑い掛け、お互いクスクスと微笑んだ。
 意味の解らない双子が、キョロキョロと見比べるが、男達の以心伝心は謎の先だった。
 獣の牙は、毒を孕み狂気を切り裂く。
 狂気が晴れるまで、獣達の戦いは終わらない。

狂牙−END

■つづき

■目次

■メニュー

■作者別


おすすめの100冊