狂喜への贐
非現実:作

■ くたびれた街3

「ただいまっと!」
「おい暖房付けろ、まずは暖房だ」
「はいはい〜」

数時間前まで暖かかった事務所も今は凍て付く空間となっていた。
ジャンパーを羽織ったまま五反田が慣れた仕草で暖房を付ける。

「コーヒーも頼む」
「インスタントで良いっすよねって、ヤベぇポットが空でした」
「んなぁにぃ・・・速攻で沸かせ」
「はいはいっと」

自分のデスクに座る目黒は顎をデスクに乗せてただ身を屈ませる一方、狭い事務所の中を五反田が動き回る。
転がり込んで来た時は面倒な事になったと思っていたのだが、この助手は家事や雑用にとよく働く。

「でも良かったっすね、契約取れて」

シンクに立って待つ五反田が言った。

「ま、いつもと変わらない不倫関連の仕事だけどな。
お前はどうだったんだ、客とのやり取りは初めてだったろ?。」

それが、と言葉を濁してから五反田は少し拗ねた口調で続けた。

「何か期待してたのと違ったんすよねぇ〜、結構勉強してきたのに」
「探偵の参考書なんてあるかっての」
「いやそんなんですけどね、折角PC持ってきたのに全く意味無いし」
「それは最初に言っただろう」
「調書とかそういうの、書くと思ったのになぁ」
「アホ」

大方漫画か小説、またはテレビ等で得た知識を勉強と言っているのだろう。
実際、依頼主や当事者から情報を引き出すのは当てにできない。
そう言った面々は隠し事や感情論が出てしまい、それをかえって鵜呑みにすると捜査は混乱を来してしまうからだ。
大体警察に相談すればいい問題を、公にしたくないという理由で探偵を雇う。
この時点からして素直に全部話してくれるとは言い難い。
五反田はそこら辺をまだ勘違いしている。

「ほいほぃっと、コーヒー入りますよ〜」
「おぅ」

元々猫舌である目黒には熱々のコーヒーはまだ口には出来そうにないが、手をカップに添えているだけでも十分な暖気だ。

「明日はって言うかもう今日か、何時頃動くんスか?」
「昼前ってとこだな、それまで十分寝とけよ?」
「・・・ ・・・え!?」

手にしていたカップが口に運ばれる前に動きが止まり、驚いた表情を五反田は見せた。

「行きたいんだろ?、捜査」
「はいっぃ、で、でも・・・その!」
「お前がここに入り浸って半年、タダ働き同然で家事ばかりやらせてるらな。
今回は・・・俺の邪魔しなければ連れてってやるが?。」
「行きます行きますっ、邪魔しませんし何でもパシリに使ってくださいっ!」

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