狂喜への贐
非現実:作

■ くたびれた街11

依頼を受けて二日目の朝は未明から降り出した雨が続いていた。
先が見えず一向に進展しない捜査は雨も手伝って目黒達の足を鈍らせる。
雨を避けて地下通路や店舗を通り抜けたのだが、麻雀店「フリテン」の手前数十メートルで散々に雨に打たれてしまった。
適当に手で雨を払ってから正面の入り口のドアを開けた。

「おぅ、来たぞ」
「おー目黒サン、今日はお客サンで来たネって、ずぶ濡れじゃないカ」
「タオルとコーヒーな」
「・・・その図太い神経ヲ見習いたいネ」

ずぶ濡れのまま李が帰ってくる間、ざっと周囲を見回す。
雨のせいかそれとも元々閑古鳥なのか卓は3つ程度しか埋まっておらず全体的に寂しい店内である。
そして誰とも目黒とは視線を合わせようとしないのはいつも通りだ。
客として入ると他の客が警戒し、裏口から入ると李が警戒するという完全に招かざる客が目黒なのだった。

「ハイよ、熱いヨ」

そう言いながらも李はタオルと熱々のコーヒーを出してきた。
目黒は髪を適当に拭った後フードの様にタオルを被り直して、まだ口には出来そうにないカップを両手で掴み暖まる。

「今日ハ一日中雨よ、ナゼ傘持ってこなかったネ?」
「だから今日も客はまばらなのか?」
「それハ置いといて欲しいネ・・・デ、今日ハお客サンとして来たデショ、アソコ座っテ待ち卓するが良いヨ」
「卓でいい、お前も座って、な」

小さく李のみに聞こえる程度に囁き、顎で空いてる卓を指す目黒。
わざと深い溜息を付いて見せて仕方なしと一番遠い卓に座る。
カップを手に対面に座した目黒は自動卓のスイッチを押しながら、まるで小声で世間話をするように語りだす。

「最近遊んでるか?」
「ハ、え、何ソノ唐突なノ」
「だから・・・ゲイバー行ってるかって事」

自分用に用意したコーヒーを吹きこぼして李は慌てたように訂正を求める。

「待て待っテ、えぇとナニカ、私は男好きジャナイヨ、何イキナリ言いだすのヨ」
「キャバが良いか、それもとびっきりのNO1の娘・・・?」
「・・・!?」

一瞬真顔になった李。
頭の良い奴だからこそ吊られた事に気付いたのだろう。
そして目黒はピンと来てからこそ次の言葉を口にした。

「知ってる、な?」
「ズルいネ目黒サン・・・」
「しらばっくれる訳だったか?」
「・・・ ・・・チョット」

カウンターを指差して李は立ち上がり、なるほどと目黒はほくそ笑み後に続いた。
雨の最中来てわざわざよかった。
カウンター奥の小部屋にあるいつもの特等席ボロソファーに座り直してから話を戻した。

「ヤバい情報だったか?」
「あそこの店ハ、うちが懇意にシテる系列店ナノよ」
「つまりお前等がこの件に噛んでる訳じゃないと」

「失礼ネ」と言ってから李が煙草に火を付けた。
じっくりと煙を肺に送り込んでから上を向いてゆるりと吐き出す。
一見何気ない趣味の仕草であるが李が考えているのは明白だった。
こんな李を見たのは久々だ。

「色々と探ってるらしケド見つからないッテ」
「どこら辺を探ってる?」
「言わナくテても解るデショ」

つまりそういう事か、と目黒は頭で思考を巡らせる。
そして手帳を取り出して次の質問を口にした。

「名前と店は?」

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