虜囚にされたOL
木暮香瑠:作
■ 罠に嵌ったOL1
「ねえ、麻希。またこっちを見てるわよ、太田産業の社長さん……」
隣の席の同僚OL・佳奈子が麻希に耳打ちした。麻希は、デスクに落としていた視線をチラッと挙げて受付カウンターの方を見た。受付カウンターには、太田産業の社長、太田幸造が細い目をこちらに向けていた。
ガッチリとした大きな身体に角刈りのヘアスタイル。これでサングラスでも掛けていれば、太田が会社の社長とは思う人はいないだろうという風体である。実際、外出する時はいつもサングラスを掛けている。今日はさすがに、取引先の会社に訪問するということで、きちっとした身なりをしている。
「気にしない、気にしない。さあ、仕事しましょ」
麻希は、デスクの書類に視線を移し佳奈子に言った。
「それにしてもいやらしい目をしてるわね、太田さん。きっと麻希を見てるのよ」
「悪口は言わないの。取引先の社長さんなんだから……」
麻希は、佳奈子との会話を終わらすように書類のチェックを始めた。しかし、佳奈子は相変らず麻希に話し掛けている。
「ねえ麻希、知ってる? 太田産業とうちとの取引、打ち切りになるらしいわよ」
「えっ! そうなの……」
麻希には、思い当たることがあった。麻希の恋人・小林亮輔が太田産業との営業担当なのだ。
(太田産業さん、最近、不良品率が多くて困るって亮輔さん言ってたな……)
デート中に亮輔がポツリと嘆いた言葉を思い出した。
「あっ、そうそう。営業の小林さんの名刺、出来てるわよ。先週頼まれてたヤツ」
「そう? 急いでたみたいだから、わたし、これから届けてくるね」
加奈子の声に、麻希は名刺を受け取ると席を立った。
営業課に急ぐ麻希の後姿に、太田幸造は鋭い視線を注いでいた。
(それにしてもいいケツをしてるな。胸も大きそうだし……。それにあの腰のくびれはどうだ、ファッションモデルと言っても通用するぜ)
白のブラウス、ピンクのベストとお揃いのタイトスカート。会社のユニフォーム姿の麻希が、通路を営業課に向かって歩いている。膝上5センチのタイトスカートに包まれた双尻がクリッ、クリッと揺れている。麻希の姿に、幸造は目を細めた。
「小林さん。依頼のあった名刺、出来ました」
営業課に着いた麻希は、小林亮輔の席の後ろから名刺の入った袋をデスクに差し出した。
「あっ、ありがとう」
亮輔は振り返り、麻希にお礼を言うと共にデスクの上にメモ用紙を置いた。
メモ用紙には、『麻希へ』と書かれてある。麻希は、営業課の社員たちに気付かれないようそのメモ用紙を受け取りポケットの中に忍ばした。
営業課を後にした麻希は、急いでお茶室に入った。幸い誰もいないお茶室の中で、メモ用紙を広げてみる。
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