虜囚にされたOL
木暮香瑠:作

■ 罠に嵌ったOL5

「麻希さん、大丈夫かね? 酔ったのかな?」
 幸造が麻希に手を差し出す。麻希は、先ほど平手を食らわせた相手に助けてもらうことが情けなかった。しかし、それほど足が縺れていた。自分一人では、とても立てそうになかった。
「すっ、すみません……」
 俯いたまま、恥ずかしそうに手を出した。

「ああっ、あああん……」
 幸造に引き起こされるが、脚に力が入らない。
「ひどく酔ってますね。たった二杯呑んだだけなのに……」
 幸造は、倒れそうになる麻希を支えようと脇の下に手を差し込んだ。
「うっ、ああん……。だ、大丈夫です……」
 麻希の唇から、潤いのある声が漏れる。
「大丈夫じゃないでしょう。とても一人じゃ立てそうにない!」
 太田は、脇の下に差し込んだ手を背中に回し、麻希を引き起こした。

 太田の手が触れた背中が、脇の下が酷く熱い。それは、太田の体温が伝わってくるのではなく、触られたところが内側から熱を発しているようであった。
 意識ははっきりしているのに、身体の力が入らない。感覚は過敏になり、太田が喋るたびに漏れる息さえ頬に感じている。
(どうなってるの? わたしの身体……。こんな酔い方、初めて……)
 自分一人では立ち上がることも出来ない麻希は、恥ずかしながらも幸造の手助けを借りる他はなかった。

 麻希は、幸造の肩を借りやっとの思いでボックス席のソファー席に腰を下ろした。
「カウンター席は危ない! そんなに酔っていたら落ちてしまう。こちらで小林君を待ちましょう。お酒を楽しみましょう」
 フワフワの大きなソファーに腰を下ろした麻希は、安堵の顔を見せた。お尻を包み込むようなソファーが、しっかりと麻希の身体を支えてくれた。
「こんなに酔ってしまって……、恥ずかしいわ。ごめんなさい」
 麻希は、酔った自分を……、平手を喰らわした太田に助けられたことを恥じた。

 太田の手が触れたところがジンジンと熱くなっている。火照りは、手の触れた脇の下、背中から広がっていき身体全体が熱を持っていった。
(ふふふ、媚薬入りのカクテルとも知らずに……。二杯も呑んじゃ、身体中が性感帯になってるだろう)
 太田は、笑いを堪え麻希の横に座った。

 ついさっき、平手を食らわせた相手が隣に座る。麻希は嫌だったが、酔った私を介抱してくださってるんだわと自分に言い聞かせ我慢した。太田の助けを借りなければ、このソファーに座るのさえ儘ならなかった。亮輔が来るまでは、太田の言うことを聞いているしかないと自分を納得させるしかない。

「暑そうだね。汗びっしょりだよ」
 太田は、おしぼりを手に言った。麻希の額には、大粒の汗が浮かんでいる。脇の下、背中も汗を噴出していた。
「はい、少し暑いですわ……」
 太田がおしぼりで麻希の額の汗を拭う。
「太田さん、結構です。自分でしますから……」
 麻希は、太田の手首を握り振り払おうとするが力が入らない。麻希の手は、太田の手首に添えられているだけのようだった。

 麻希の首筋には、絹のような艶やかな後れ毛が汗で貼り付いている。汗に濡れた黒髪は、肌の白さをことさら強調している。額には髪の毛が貼り付き、色香を漂わせる。
「いくら拭いても汗が出てくるね。服を脱いだほうがいいんじゃないかい? フフフ……」
 太田は、目の奥に卑猥な光を漂わせながら口元を吊り上げた。

 太田は、ソファーに凭れこんでいる麻希の背中に手を挿し込みワンピースのファスナーに手を掛ける。
「いやっ、だめえ、こんな所で……」
 麻希は、太田の手から逃れようと身体をクネクネとくねらせた。しかし、太田はあっさりとファスナーを探しだし、一気に下げた。
「いやあ! そ、そんな! 恥ずかしい。ひ、人に見られてしまいます」
 麻希は両手で胸を覆うようにし、ワンピースを脱がされまいと我が身を抱きしめた。

 ボックス席は、三方が壁で仕切られていて通路側にはカーテンが備え付けられている。カーテンを引けば、個室のようになり視界を遮ることができる。
「カーテンを閉めれば、見られる心配はないよ。声さえ出さなければね」
 太田は、カーテンを引き視界を遮った。
「こういう場所は初めてかい? ここは、恋人たちがお酒とHを楽しめる場所なんだよ」
 カーテンの向うから複数の足音が聞こえる。新しい客が来たみたいだ。コツッ、コツッ、コツッとハイヒールの甲高い足音と革靴の低い音が聞こえてくる。
 太田は麻希の横に座り直し、胸の前で組まれている手首に手を掛けた。

 太田は、ゆっくりと麻希の手を胸の前から剥がしていく。
「いやっ、やめて……。だっ、だめえ……」
「ふふふっ、声を出すと他の人に気付かれてしまうよ。いいのかい?」
 太田が、麻希の耳元で呟く。麻希は、イヤイヤと首を横に振った。

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