虜囚にされたOL
木暮香瑠:作

■ 寂しさと愛しさの狭間1

 麻希は、亮輔に連れられワンルームマンションに帰っていた。亮輔に抱えられながら、やっとの思いでマンションまで辿り着いた。途中、二人は一言も喋らなかった。お互いに掛ける言葉を見つけることが出来なかったのだ。

 壁際には、リボンの掛かった箱が転がっている。亮輔が、麻希の誕生日祝いに選んだプレゼントだ。亮輔は、部屋に入るなり壁に向かって投げつけた。角の潰れた箱が、寂しげに転がっていた。

 カーペットの敷かれたフロアに、二人は座っていた。未だ一言も喋っていない。亮輔は怒りと悔しさで、目に涙を湛えじっと視線を床に投げかけていた。
「ちきしょう……、ど、どうして? どうしてあんなヤツなんかに……」
 ポツリと亮輔が呟く。
 麻希は、何も弁明できなかった。お酒の酔いも媚薬の効果も醒めた麻希の意識を、官能に替わり恥辱が支配していく。所々残る記憶は、恥ずかしくとても口にすることの出来ないものばかりだった。麻希は、瞳を硬く閉じ無言のまま頭を垂れていた。

 亮輔の怒りがどんどん大きくなる。冷静になろうとすればするほど、バーでも麻希の痴態が思い出される。
 麻希は、弁明さえしない。数時間前に見た麻希が、本当の麻希なのだろうか? いつもの清楚な麻希は、演じられた虚構の麻希ではないのか? そんな疑惑が募ってくる。裏切られた気持ちが、どんどん大きくなる。そして、何も語ろうとしない麻希に、亮輔は声を荒げた。
「何か言えよ!! お前は、あんな女だったのか? 見られて逝ってしまう淫乱女だったのか?」
 疑惑と怒りが限界を超えた亮輔は、大きな声で麻希を罵った。麻希は振り返り、亮輔の顔を見た。怒りに眉毛は震えている。
「違う! し、信じて……。わたし……、淫乱なんかじゃない……」
 麻希は上目使いに亮輔を見つめ、初めて弁明をした。しかし、すぐに目を伏せてしまった。麻希に残る記憶は、弁明をするにはあまりに辛いものだった。断片的に残る記憶をたどると、そこには官能に酔い恥ずかしい言葉を口走る麻希自身がいた。

「酔ってたの……、お酒を飲ませれ……酔ってたの……」
 俯いたまま、小さな声で麻希は呟くように言う。とても亮輔の目を見ることは出来ない。
「酔えば誰にでも嬲らせるのか? あんなに乱れるのか?」
 亮輔は、麻希の肩に手をやり揺さぶりながら罵倒した。
「ち、違うわ! わ、わたし、そんな女じゃない」
 揺さぶられる麻希も、声を大きくして弁明した。瞳がみるみる潤み、大粒の涙が頬を伝った。

 しかし、亮輔には素直に麻希の言葉を信じることは出来なかった。媚薬に侵され乱れていたことは知らない。太田の怒張を求め、腰を振っていた麻希の姿が目に焼きついていた。
「それじゃ、ヤツのチ○ポがそんなに良かったのか!? 男のチ○ポなら何でもいいのか!? あれがお前の本性なのか?」
「ち、違うの。解らないの、自分でも……、うっ、ううっ、ううう……」
 麻希は恋人が自分を信じてくれないことが悔しくて、、両手の掌で顔を覆い泣き崩れた。

 お互いに無言の時間だけが過ぎていく。静寂を破って、亮輔が呟くように言う。
「シャワー、浴びてこいよ。あいつらのザーメンの匂いが鼻に衝くんだよ」
 亮輔の言葉が、麻希の心の傷跡に突き刺さる。シャワーを浴びたいと、一番思っていたのは麻希自身だった。臭いも記憶も全部洗い流せたら、どんなにいいだろう。
「ひ、酷い。そんな言い方……」
 麻希は、いたわりの感じられない亮輔の言葉に悲しくなる。泣きながら小走りで、浴室へ向かった。

 麻希は、不安に苛まれながらシャワーを浴びた。亮輔が言った言葉が気に掛かっていた。『あれがお前の本性なのか?』と言った言葉が麻希を不安にさせる。
(あれが……、わたしの本性? わたしの中に潜む本当のわたしなの……?)
 麻希は不安を抱きながら、浴室から出た。

 バスタオルだけを巻いた麻希が、浴室から出てくる。亮輔は、その姿を虚ろな視線で見つめた。亮輔が愛した女は、淫らな姿を見せ付けられたとしても美しかった。濡れた髪をアップにし、うなじが晒されている。括れた腰に巻かれたバスタオルが、胸の隆起から股間までを隠している。バスタオルから伸びた脚は、脂の載ったまろやかな脚線美を誇らしげにすらりと伸びている。視線を上に移すと、胸の隆起がバスタオルから半分顔を覗かせており、深い谷間がバスタオルの下に流れ込んでいた。

 シャワーの熱湯に、肌がほんのりと桜色に染まっている。その姿は、落ち込んでいた亮輔の欲望を刺激するには充分すぎる色香を漂わせていた。怒りと悔しさに満ち溢れていた本能は、愛欲と淫欲へと変化し爆発した。
「好きだ! 好きなんだ!! なのに何であんなヤツと……。ちきしょう……」
 亮輔は麻希を床に押し倒し、バスタオルを剥ぎ取った。
「どうしたの? どう……して? 変? 亮輔さん、おかしい……」
 脚をくの字に曲げ、脂の乗った太腿を重ね合わせる。そして、豊か過ぎる胸を両腕で隠し麻希は身を守った。あまりに突然のことに驚いた麻希の、女性としての本能がそうさせた。いつもは優しく抱きしめてくれる亮輔が、凌辱者のように覆い被さってきたことが恐かったのだ。

 抵抗する麻希を亮輔は睨み付けた。
「ヤツの方がいいのか? もう、俺を愛してないのか?」
 麻希の両手首を掴み万歳の格好に押さえ付け、亮輔はお腹の上に馬乗りになった。
「そ、そんなことない! 大好きよ。好きなのは亮輔さんだけ……、信じて……」
 麻希は、いつもの亮輔に戻って欲しくて必死で訴えた。

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