女麻薬捜査官和美
若光:作

■ 拷問編4

 この姿勢自体が苦痛なのだ。もう屈服したのだから、せめて少しは楽にしてくれても、と和美は思った。
 肉体的な辛さはもちろんだ。それ以上にキーボード以外には、自分の陰毛と性器と肛門と、丸い二つのヒップしか見えないのだ。最も隠したい身体の部分をこんな角度から、こんな近くに見るなんて、和美の目からは涙も出なかった。
”なわをゆるくして”
 そう和美は打った。
「ふざけるな。質問にだけ答えろ」
 言うなり鞭が和美のヒップに飛んだ。ギャグからは唾液が、鼻からは鼻汁が、全身からは汗が、吹き散った。嗚呼と和美の身体から緊張が緩んだ。アナルから、止めようもない重低音と共にまたガスが抜け出た。さっき机上では、一瞬のガスの暴発だった。即時にアナルを締め、最小限の噴出で済ます程度の余地と、人として女としての誇りが、まだ和美にはあった。今の和美には、もうそんな余裕も、更には羞恥心自体が摩耗していた。五・六秒だろうか? 重低音のガス放出は続いた。放出音が終わった時黄色い粘液状態となった汚物が糸を引いてアナルから出
るのを和美は見た。粘液状の黄色いそれはいつまでもアナルから糸を引いていた。強烈な汚臭がした。和美の最後かもしれない理性と羞恥心が、凄まじい意味のわからないギャグに潰された大声と共にヒップを左右に振り回させた。黄色い粘液は、左のヒップの丸みに付着した。そして流れる汗に少しづつ押し流されていった。
 尋問は、ほぼ一段落したらしかった。和美は、また鞭を受けるかもしれないと思ったが、覚悟してキーボードを打った。
”ころすの”と。
 沈黙があった。和美はヒップに来るだろう鞭に全身の神経を集中して備えた。フッと男が笑った。
「村田和美、尻に鞭が行くと思ったろう。どうするか俺も考えた。お前の予想通り尻に思い切りブチ込むか、それとも別の場所にするかとな。どちらにしたらお前が、へを垂れるかをな」
 和美から、緊張が失せ全身が弛緩した。相手と思考内容が、完全にシンクロしていたのだ。和美は再びキーボードを打った。
”ころすの”
 しばらくして男が言った。
「どちらがいいんだ」
 和美が打つ。
”のぞみどうりにしてくれるの”
 またしばらくの沈黙があった。
「俺の権限で、言っていいかどうかわからない。和美か、けなげな女だな。平然と排泄して、拷問でも最後の一滴の小便、最後の一塊りの大便迄出した。腹に何もなくなってからは、へも出した。麻取の鏡だな」
 聞きながら和美は涙を押さえられなかった。あたし麻取のスタンダードよりは、がんばったんだ、やるだけ以上にやったのよ。陰毛から滴る汗の数を数えながら和美の目からは涙が溢れた。上司・同僚・後輩・近親者の顔が浮かんだ。
「殺された方がいいのか?」
 和美は首を横に振った。
「そうか、なら朗報だ。お前は殺さない事に決まった。お前の全身写真を見た上で、上部が決定した。俺は、じっくり顔など見てないが、なかなかいい女だよな、お前…村田和美か」
 ホッとしたのは確かだ。だが自分の全身写真とは、当然フルヌードだろう。仕事一筋で、恋人など作れもしなかった。だけど鏡にフルヌードを写すと、いい女だと思えた。ミスコンで、優勝できるとまでは、自惚れなかった。でもバスト、二十歳位迄は大きいだけでブリブリしていた。今27になり、余分な脂肪がなくなっている。全く垂れていない乳房は、上を向いてこそいないのと小さめなのが、自分では悔しいけどピンと、張り出している。風呂で見る同世代の娘や雑誌のグラビアの娘と比べてコンプレックスを抱く事は、なかった。ウエストには、贅肉といえる何物もない。高校生の頃は、もっと弛んでいた。今、軽く腹筋が浮き出している。腰骨の上にほんの一つまみの贅肉がある。これだけが和美の唯一の不満なのだ。そしてかなりに膨らむヒップ。大き過ぎると和美は、思っていた。このヒップいやらし過ぎる、もう少し小尻だったらと和美は自分の身体についていつも考えていた。補正下着など必要と思わなかった。顔だって凄い美人とまでは、思わない。でもバランス良く整
っていると思う。休みの日には、思い切りボディラインを必要以上に強調して、股上が思い切り短いパンツで、盛り場に遊びにも行く。むしろ、女が振り向く。同性同士のファッションの探り合いだ。でもかなりの確率で、男も振り向く。あたし女として、対象として見られている、そうして男の目を向けさすのに軽い興奮をする和美だった。
 あたしの身体と顔を考慮した上で、殺さないの? という事は? 絶望が、和美の胸に広がっていった。
「生かすなら、二つある。一つは高級娼婦だ。だがこれには訓練もあるし、時間がかかる。おそらく、お前は、ケシ農場での家畜になるだろう。」
”なになのかちくつて”
 和美が打つ。
「もうそこまでだ。まだ聞き出す事が、いくつかある。」
 そして、尋問が、再開した。家畜って何なの、和美は思った。そして尋問は終わった。和美は「全て聞き出す事は聞き出したようだ」との声と共に後ろ手の手首を吊る縄を緩められ、唾液と、鼻汁と、汗の溜まる中に和美の身体があお向けに沈んでいった。和美の意識が失われていった。失神ではなく眠りだろう。とにかく意識をこれ以上保つ事が、和美にとり限界だった。轡の端の唇から、ごく少量の和美から出た汗が、口に入り、和美はなめた。心地よい塩加減だった。捕われて以来初めての摂取だった。

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