哀妹:芽衣
木暮香瑠:作

■ セクシーランジェリー登校3

 6時間目の授業も終わり、クラスのみんなは部活へ向かうもの、家に帰るもの、おしゃべりをするもので、がやがやとしている。部活をしていない芽衣も、家へ帰ろうと教科書等をカバンに詰めていた。柴田修が、珍しく芽衣に話し掛けてきた。あまり親しくない相手だけに、芽衣は驚いた。
「白川君、少しいいかな?」
「えっ、なに?」
 一応、クラスメートなのでイヤともいえない。
「あのさ、俺が写真部だって野は知ってるよね。秋の写真展のモデルになってくれないかな」
「えっ、わたしに…?」
 芽衣は、一瞬と惑った。
(なぜわたしに?)
「わたしなんかじゃなくて……、優ちゃんとか、Fクラスの美紀ちゃんとか……。
 かわいい娘、いっぱいいるじゃない……」
 芽衣は、男子たちから人気の高い女子の名前を挙げた。
「いや、白川君がいいんだ。やつら、フェロモン出しすぎなんだよ。
 人気なのをいいことに、最近、生意気だしな」
「でも……、わたしなんか……」
 芽衣は、嬉しかった。モデルになってくれないかといわれれば、この年頃の女の子なら誰でも嫌な気はしないだろう。顎を引き、上目使いに、戸惑っているような仕草で柴田を見上げる。
「白川君じゃなくちゃダメなんだ。俺たちの今回のコンセプトは、少女と大人の間って感じでいきたいんだ。芽衣ちゃん、男子生徒たちの間で人気なんだぜ。優とか美紀より……」
 確かに芽衣の人気は、高かった。派手な優や美紀の人気もたかかったが、隠れ芽衣ファンを入れれば、芽衣の方が多いだろう。男子たちの間で女子の話をすると、優や美紀の名前が必ず出てくる。みんなに名前の知れている、大人っぽくグラマーな優や美紀の名前を出しておけば、話が盛り上がる。しかし、誰かが、『芽衣ちゃんもかわいいね』というと、みんな肯いた。まだ子供っぽいところの残る芽衣のことは、大人に見られたい男子たちには、一番に名前を上げるには抵抗があった。しかし、本当のところは、密かに、一番に上げたい気持ちを持っている男子は、芽衣が一番多いかも知れない。
「ねっ、頼むよ。ねっ、ねっ、芽衣ちゃん」
 柴田は必要に粘る。親しげに名前で呼んだ。
「でも……、自信ないな……」
 戸惑う芽衣に、柴田は、
「話だけでも聞いてよ。他の部員たちも部室で待ってるんだ」
 そう言って、芽衣の手を引き部室へ誘った。

 芽衣は、柴田に誘われるまま写真部部室に行った。そこには、部員の藤原健太と石塚真由美がいた。この三人で、同じテーマで写真を撮るのだという。
「私たちが考えたテーマは、『少女と大人の間、初めての……』って言うの。どう?
 初恋とか女の子の初めてのデートとか、初めてのキスっていうので写真を撮りたいの」
「えっ、キスですか? そんなの…できない……」
 芽衣は、キスと言う言葉だけで顔を赤くした。
「ううん、実際にキスなんかしなくていいの。アングルを工夫してキスしてるみたいに撮るから……。キスをする前の恥ずかしそうな感じ……、ほら、今の表情みたいなのが取れればいいんだけど……」
 真由美が、熱く説得する。柴田も藤原も真剣な顔をしている。
「ねっ、いいでしょ。お願い……」
「う、ううん……」
 芽衣は、引き受けてもいいかなと思い始めていた。女性の石塚真由美がいたことも、芽衣の心を和らげた。
「引き受けてくれるのね。ありがとう」
 真由美が嬉しそうにいう。
「やったあー。サンキュー」
 柴田も藤原も大喜びした。

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