緑色の復讐
百合ひろし:作

■ 第一話2

「まだ懲りて無かったのね」
そんな遥を見て、小夜子は口元に手を沿える仕草をした。これが始まりの合図だった───。


次の日───。2限目は体育だった。遥は体育は好きだった。持ってきた体操着に着替えようと思いロッカーを開けた。

無い。

忘れた訳が無かった。登校後、自分のロッカーに入れたのははっきり覚えていた。また、ロッカーの中はキッチリと整理整頓していたので万が一忘れたとしても忘れた事ははっきり判る様にしていた。
しかし、無いものは無い。その時に気付いた、盗まれたのだと。だからといってサボる訳には行かないし、もし盗んだのが小夜子のグループだとしたら───証拠も無いし盗まれたと騒ぐ事も出来ない。
繰り返しになるが、動けなくなるまでに暴行を受けた事が体も心も動けなくしていた。何かを言えばまた暴行される、関わるな───と。

ロッカー内にはジャージは有ったので仕方なくジャージを手に取って更衣室に向かった。
友人に体操着の事を聞かれたりしたが笑顔を見せて、
「忘れちゃったみたい」
と答え、下着の上から直接ジャージを着て体育の授業に参加した。
遥は先生に軽く注意されただけで普通に体育の授業に参加出来た。そんな遥の姿を見て、グラウンドの砂を鳴らしながら小夜子はグループに、
「今日からやるわよ。放課後足止めしなさい───」
と言った。そしてグループのメンバーを一通り見渡した後クスッと笑い、
「そうね───真由羅。貴方が行きなさい」
と命令した。真由羅は、
「はい……」
と従った。小夜子は、
「アレも持って───ね」
と付け加えた。


放課後───。遥は教科書類を鞄にしまい帰ろうとしたがその時、
「あの……青山さん……」
と声を掛けられた。遥が目線を向けると丁度前ボタンが開けられたブレザーと可愛らしく穿きこなしたミニスカートが目に入った。
視線を上に上げると遥と同じ位の巨乳でも貧乳でもないバランスの良いふっくらした胸元、そして襟元の綺麗に結ばれたリボン───。スカートの穿き方やリボンの結び方から真面目なタイプに思えた。そして首筋、顎、そしてアイドルの様な顔───。そして左右に結ばれたツインテールの髪。
遥に声を掛けたのは真由羅だった。両腕を後ろに組み何かを持っているように見えたが、表情は曇っていた。遥は、
「どうしたの?」
とだけ聞いた。何の用があって声を掛けて来たのかは分からないが真由羅は小夜子グループの1人なので下手な事は言わない方が良いし質問も最低限にしておいた方が良いと思った。自分の安全を確保するには関わらない方が良かった。そういう風に考えなければならない事に悔しさと無力感を感じながら───。

「あの……ご免なさい。体操着、私忘れてしまって……だから……」
真由羅は申し訳無さそうに言った。そして後ろ手に持っていたバッグを遥の机の上に置いた。遥は真由羅が言わんとした事は理解した。つまり真由羅は自分が体操着を忘れたので160cm代中盤から後半と背格好が近い遥の体操着を盗んで着ていた、という言い分だった。
「……いいよ。そういう事なら」
ここで真由羅に何か言ったら小夜子に暴行されるかも知れないと思い、遥は形の上では許す事にした。しかし、何か不自然さを感じた───。真由羅は他の人より可愛く制服を着る事を意識している様に見えたので、体操着を勝手に使ったとはいえ謝った上で返してくれたのだから、少なくとも当日に持って来るのは不自然だった。そういう性格の人なら洗って返してくれる筈だ───と。
席から立ち上がり、バックを開けて確認すると持って来た時と同様、体操着は綺麗に畳まれたままだった。
「どういう事───」
遥は呟いた。言葉ではそう言ったが全て解ってしまった。真由羅は体育をきちんと体操着で受けていたので使われた跡がない遥の体操着の状態を見ると真由羅の言動には矛盾がある。

つまり真由羅は体操着を使っていない。

となると考えられるのは1つしか無かった。真由羅はグループのリーダー小夜子の命令で返しに来た───つまり小夜子のグループが盗んだという事だった。体操着で体育を受けさせない為に。
遥が真由羅からバックを返して貰った頃から教室の外に人の気配がしたのには気付いていたが、予想していたのと同じ人達が入って来た───。小夜子とそのグループである。
「あなた、体育館に付き合ってくれない?」
小夜子はグループで遥を取り囲むと真由羅を無理矢理後ろに下げさせて言った。遥は、
「私が何か……?」
と聞いた。すると小夜子は、
「あなた今日、体操着忘れたじゃないの。先生に代わって私達が補習をしてあげる、って話よ」
と答えた。遥は、これが目的だったのか、と思った。何らかの形で遥を陥れ、その落ち度を突いて行く。卑怯者───と思った。しかし左右をチラチラ確認したが逃げられそうに無いので従うしか無かった。

■つづき

■目次

■メニュー

■作者別


おすすめの100冊