緑色の復讐
百合ひろし:作

■ 第四話7

今に戻る───。
学校内では謎の通り魔が生徒を襲うということで全校集会が開かれたりした。何といっても犯人は『校内の人間』なのだから学校中恐怖感に襲われていた───。
小夜子は、いじめで自殺者が出た時の対応はずさんで学校側は保身に躍起なのに、こういう時の対応は早い事を心の底から馬鹿にすると同時に自分達にとってとても居心地が良い場所だと思っていた。
その為得意のSNS網を使って裏から犯人を追い詰めて、今までと同じ様にいじめ殺してやろうと思って動き始めた。

しかし五日、十日と過ぎても犯人は突き止められなかった処か犠牲者は増えるばかり───警察が学校周りを警戒して固めても意味はなかった。そうなると小夜子にも焦りの色が見え始めた。
犯人は必ず小夜子のグループのメンバーが一人の時を狙って仕留めていた。三人目がやられた時点でそれに気付いた小夜子は必ず複数で行動しろと指示をした。しかし、それでも襲われる───。
「おかしいわ……一人にはなるな、って言ってるのに───」
複数で行動していてもやられるのは一人。目撃情報から犯人は真由羅とほぼ同体格の女子生徒で顔に面を着けている為、正体が判らないという事だった。
小夜子はイライラしながら爪を噛んだ。
「真由羅───今日から私を守りなさい」
同じ中学校出身なので家が近く、またいざとなったら盾になって貰おうと思い真由羅に指示をした。真由羅は、
「はい……」
と伏し目がちに感情のこもらない声で答えた。副リーダーは小夜子を守る役を真由羅に指示したのを不満に思ったが、小夜子に逆らえる筈もなく仕方なく従った───。


その夕方───。小夜子はグループのメンバーを引き連れて学校を出た。とはいってもかなりの人数が病院送りにされてしまい、今は四人しか居なかった。暫く行くと別の方向のメンバー二人が別れた。ここからは真由羅と二人になる。そして真由羅と別れた先には他の高校に行ったメンバーと合流する算段になっているので自分は安全だった。
真由羅と二人きりの間は会話らしい会話等全く無かった。もっとも真由羅と話す内容など元々無いのだからそれは仕方が無かった。小夜子はイライラした表情を浮かべ、今まで十人病院送りにしている犯人が全く判らない理由が分からなかった。他の高校のメンバーにも調べてもらっているが兎に角分からないのだった。
その犯人は何くわぬ顔で今日も登校して授業を受け、そして下校していると考えるとそれはそれで恐ろしかった。やられているのが小夜子グループのメンバーだけなのはわかっているので、犯人が仕留めている順番からすると狙いは自分であることはもう気付いていた───。

小夜子は犯人に体格が近い───つまり背格好が真由羅に近い生徒を怪しみ次々に拉致監禁したりしたりしたが、その日も事件が起こり、結果的にその生徒の身の潔白を証明してしまっていた。

「少しお腹が減ったわ。あそこに寄りましょう」
小夜子はファーストフードを指して真由羅に指示をした。小夜子と二人の時は当然真由羅の奢りである───真由羅に限らず同行した人が小夜子に奢る事になっているのだが───その為真由羅は小夜子と食事する時は一緒に座っているのみで自分は食べなかった。お小遣いが持たないからである。真由羅は小夜子にメニューを聞いて注文をして、それを受け取って帰って来た。
「ありがとう」
小夜子はそう言って食べ始め、スマホの画面とにらめっこしていて、真由羅は黙って目の前に座っていた。

小夜子は半分位食べた所で、
「真由羅、貴方は帰っていいわよ。別の仲間がここに来るから」
と言った。真由羅は、
「はい」
と返事をし、お辞儀をしてから店を出て行った。暫くすると呼んでいた仲間が三人入って来た。小夜子はそこでその三人にも指示をしていた。

真由羅は自宅に向かって歩いていた。所々街灯の電機が切れていて暗い所があった。しかし真由羅はそれに対しても何も感じなかった。ただの何時もの風景だったから。
自分や周りに起こる事にいちいち感情が動いていたら心が持たない───その為、今は完全に表情の無い人になっていた。
そして街灯が二本連続で切れている箇所を通った時───。
「真由羅さん───だね」
と声を掛けられた。真由羅は声の方、右に振り向いたがそこには誰も居なかった。真由羅は、
「誰……?」
と感情の込もっていない声で聞いた。その瞬間左から攻撃を食らい道に倒れた。
「あ……ぐっ」
真由羅は左脇を押さえてうめきながらも、携帯電話を出した。小夜子の命令である───通り魔事件の犯人が現れたら真っ先に電話しろ、と。
小夜子の番号を呼び出し、電話を鳴らす───そして小夜子が電話に出た。すると声の主は真由羅の手から携帯電話を弾き飛ばし、その後真由羅を立たせて張り手を四発入れた。真由羅は自分をひっぱたく同じ位の体格で顔に面を着けた生徒が誰だか分からなかった。
当然真由羅を叩くその音は電話の向こうの小夜子にも聞こえていた。いや、聞かせる為に張り手という大きな音が出る手段を選んだ。それを電話の向こうで聞いていた小夜子がなにやら叫んでいる───しかし、そんな事は気にも掛けずに真由羅を叩き続けた。真由羅が膝を付いて崩れ落ちると、声の主は手袋をはめてから電話を手に取った。

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