緑色の復讐
百合ひろし:作

■ エピローグ4

一月程してようやく都合がついて、保護司と会えた───
「差し入れのジュースを美味しそうに飲んでましたし、表情も良かったですよ───きちんと入院生活送ってる様で───髪は少し伸びましたね」
保護司は真由羅達に説明した。この時保護司に会ったのは真由羅、和歌子、希美、友近、そして遥の同級生四人だった。
本当は自分達からの言葉を遥に伝えて欲しかったのだが、友近が前もって全員に、面会者は入院者に外の様子を話してはいけない事を話して置いたので全員我慢していた。
「ただ───一寸気になる事を言ってましたね」
保護司は前置きした。全員遥が何を言ったのか気になった。
「毎日色んな風が吹いてますね───と」
保護司は首を傾げながら言った。遥が精神的にそれだけの余裕を持っているのか、と思った。しかし、希美はそれを聞いて、
「分かったわ───。出てくるまで待ってるわ」
と口元に笑みを浮かべて言った。遥は何らかの方法で風を感じながら桜流忍術の修行を続けている、といったメッセージだった。
女子の少年院は色々難しいらしいが、遥のその言葉から恐らく遥にその気が無くとも自分の周りは制圧してしまったのだろう。遥がしてきた修行は、そういうものでもあったから───。


七ヶ月後のクリスマス───
「はい、無心流空手道場です───。あ、はい。え?」
霞は無心流空手道場で電話を取るなり驚いた。そして、
「お姉ちゃん!電話、電話!」
と慌てて希美に繋いだ。希美は受話器を受け取り話を聞いた。嬉しそうに話した後受話器を置いた。横で聞いていた霞は、
「みんなに知らせないとね」
と言った。希美は頷き、何人かに電話を掛けた。それから初老の男性を呼び車を準備させた。

希美と霞は初老の男性が用意した車───ミニバンに乗り道場を出た。その後市内を回って友近と中学時代の同級生三人を拾って県外に出た。
そして見覚えのある駅に着いた。そこで待っていたのは真由羅と和歌子の二人だった。この半年間真由羅は保健室登校状態だったが、未だカウンセリングと薬に頼りながらではあるが徐々にクラスの方にも顔を出せる様になったと聞いていた。また和歌子は小夜子が居なくなった後、普通に復学したが、小夜子を恐れていた為とは言え和歌子をいけにえ同然にしたクラスメート達との溝は埋まらず、市外の高校に転校していたが、この時は真由羅と一緒に駅で待っていた。
「全員揃ったし行きますよ」
真由羅と小夜子が乗った後、希美が言うと全員息を合わせて、
「オー」
と声を上げた。

一時間後───
「ここで良いのか?」
友近が訊くと希美は、
「ここで待っててって言われたわ」
と答えた。人通りの多い街───丁度自分達が住んでる市と真由羅達が住んでる市と、三角関係にある位置にある街の駅前通りの若者向けの百貨店前だった。
そこに九人固まって待っていると遠くからポンチョとトップスとミニスカートのサンタクロース服を着た人が近付いて来た───。人や車の往来が激しいのでその人の足音は掻き消されていた───いや、
「あの歩き方!?」
霞は初めて会った時にファミレスで見せた自分の歩き方で歩いてる事に驚いた。

保護司に聞いた時は秋には後ろで束ねる位伸びていた髪は最後に会った時と同じボブカットに戻っていた。表情は穏やかで落ち着いていた。そして体型も半年前と変わらずミニスカートから出てる足も相変わらず綺麗だった。近くまで来ても足音が聞こえない所からしても桜流忍術の訓練は一人で続けている様に見えた。
真由羅は駆け寄って抱きつき泣いた。真由羅を受け止めた時に初めてコツッと靴音が鳴った。
「みんな、久し振り」
真由羅の頭を撫でながらその人───青山遥は笑顔で言った。

緑色の復讐 完

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