夢魔
MIN:作

■ 第4章 主人13

 2階の階段室で稔に渇を入れられ、沙希が昏倒から目覚め始めた。
 軽く首を振り、薄目を開けて廻りを確認しながら、記憶を探る。
(ここは…2階? …さっきは…トイレだったような…嫌だわ…もしかして、また夢が出てきたの…)
 沙希は稔に抱きかかえられている事より、自分がまた、淫夢に侵された事が、ショックだった。
 震えながら自分の身体を、両手で抱きしめると、初めて今の状況に気付き、声を上げる。
「柳井…君、工藤と垣内まで…どうしてこんな所に…」
(な、何でこいつらまで…何で、私の嫌いな3人が集まってるの…)
 稔が沙希の表情と、言葉を読み取り
「君が僕に相談に来て、話している最中に、フラリと意識を無くして。たまたま通りがかった彼らが、心配して呉れていたんです」
 口から出任せを、沙希に教える。
(えっ? 嘘…そうなの? 私の記憶に残る、トイレの事や廊下での事は…夢…? でも、妙にリアルだった…)
 沙希は訝しむ表情を浮かべながら、頭の中を整理し始める。
(不味いな…、このままじゃ嘘を認識されてしまう…)
 稔は次の行動を考え、口を開いた。
「所で僕は、いつまでこの格好をしていれば良いんですか?」
 沙希は自分が、稔の腕の中に抱えられている事に、初めて気付いた様子で
「あ、ご免なさい…今起きる上がるわ…」
 頬を染め、ドギマギとした表情で稔の腕の中から、起きあがる。

 沙希が起きあがり、3人の輪の真ん中に立ち上がると、丁度背中を向ける位置に立っていた狂の顔が、妖しく笑い。
「そう言えば、前田さんはさっき言ってた、勝負って言うのは何なの?」
 純の口調と顔で、沙希に言葉を投げかけた。
 沙希はその言葉に驚き、後ろを振り返ると
「勝負!? 何…? 何の話…?」
 眉根に皺を寄せ、狂の言葉を探るように、狼狽える狂の顔を睨み付け、狂に聞き返す。
(この、小心者のチビが…私に何を言ってるの…)
 その声は、苛立ちを隠せず、あからさまに不機嫌な声で狂に問い掛ける。
 沙希に背中を向けられた、稔の顔が無表情になり
(狂…この上、何を引っかき回すつもりだ…)
 狂の顔を、沙希の背中越しに睨み付けた。
 狂はその目線を薄く笑って、かわし
「うん、負けた方が勝った方の言う事を、何でも絶対に聞くって話…」
 怯えた演技をしながら、沙希に説明した。
 勿論そんな話は、今初めて出た物で、狂以外誰も知らない事だった。

 しかし、稔はその言葉を一瞬で分析・検討し、庵に目配せすると沙希に話しかけた。
「そう、君が勝てば僕は全力で君の悩みを、解決する。君が負ければ、僕たちの趣味に付き合って貰う…そう言う話です」
 稔がそう話しかけ出すと、庵が自然に狂の横に進み、言葉を続けようとする狂の口を塞いだ。
 その動作を確認した稔は、更に沙希に言葉をかぶせる。
「勝負の種類は貴女の得意なテニスで、ルールは私が決めると言う所まで、話していましたが…お忘れですか?」
 沙希は稔の言葉に、記憶を探るがそんな話は、全く覚えていない。
 しかし、稔の落ち着いた物言いが、自分を嘲っているように感じてしまい
「お、覚えているわよ…私がテニスで、あなた達に負けるわけが無い…どんなルールだって聞いて上げるわよ」
 持ち前の気の強さから、勝負を認めてしまった。
 稔は大きく頷いて、沙希に話しながら、踵を返して歩き始める。
「では、勝負は成立ですね。お互いが、この勝負に異存がない事を書面にしましょう…勝負が付いて、言った言わないの水掛け論に成るのは、避けたいですからね…」
 沙希は稔の背中を睨み付けて頷くと、稔の後に付いて歩き始めた。

 稔達は階段室の直ぐ側にある、化学準備室に入りそこで、ルールの詳細を書面にし始めた。
「では、私柳井稔と前田沙希は、この書面に定める事を、何が有っても守ると誓います。出だしはこんなモンですか…」
 稔の言葉に、沙希が頷きそれを確認して、稔が紙に書き込む。
 書き終わった紙を、沙希が確認してまた頷く、そんなやり取りで沙希の誓約書作りが始まった。
 誓約書の内容は、以下のような内容だった。
 私柳井稔と前田沙希は、この書面に定める事を、何が有っても守ると誓います。
一、勝負の結果、敗者は勝者の求める事に絶対に従い、この勝負により知り得た情報は、絶対に他言や悪用しない。
一、この誓約書に定められた事を破った場合は、その情報を公開されても一切の文句や報復措置は取らない。
一、前田沙希が勝利した場合は、柳井稔の持つ知識、技術の全てを使い、前田沙希の相談に乗り、それが解決するまで責任を持って仕える事とする。
一、柳井稔が勝利した場合は、前田沙希は柳井稔の趣味を満足させるため、その全てを使い仕える事とする。

 ここまでを書いた時、沙希が稔に食って掛かる。
「こ、これじゃ…私が負けた時は、私は貴方の物になるの? こんなの、一方的過ぎるじゃない!」
 稔はそんな沙希に
「前田さん…よく考えて下さい。僕は貴女の悩みが解決するまでと、書いているでしょ。これは一年でも二年でも続くんですよ…それ位のリスクは、背負って貰わないと…技術では貴方に勝てないんで、メンタルハンデは背負って貰わないと…」
 諭すように話した後
「それとも、テニスで私達に勝つ自信が無いんですか…」
 嘲りを浮かべて、沙希に言った。
 沙希は真っ赤な顔をして、怒りを顕わにし
「負ける訳無いじゃないの! 私はインターハイ選手よ! 馬鹿にしないで…」
 稔の言葉に反論する。
「ならば、余計に問題ない事じゃ有りませんか…負けた場合の心配は、弱い方がする物ですよ…」
 更に沙希の心を逆撫でするように、稔がからかう
「解ったわ、じゃぁ書き換えて頂戴! 負けた方は勝った方の奴隷に成って、絶対に服従するって! 貴方を絶対、酷い目に合わせて上げるからね」
 沙希はそう言って、誓約書を書き換えさせた。
(短気な者程コントロールしやすいけど、ここ迄容易いのは、初めてだな…)
 稔は誓約書を書き換え、沙希の前に提示する。
 沙希はそれを読んで、自分の名前を書き込み拇印を押すと、稔に突き返す。
 稔はそれを受け取り、同じように名前を書いて拇印を押した。

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