夢魔
MIN:作
■ 第14章 専属(梓)10
稔はバツが悪そうに、そっぽを向いている庵に
「庵、梓は僕の専属にしますね」
ごく当然のように語りかけた。
それは、朝の挨拶を交わすような、軽い口調だった。
「はい、構いません」
庵の返事も、何の感情も込められない、ごく軽い物で梓達は拍子抜けする。
庵の返事を聞いた稔は、携帯を取りだしダイヤルした。
暫くして、稔が携帯に
「あ、狂ですか? 梓は僕の専属にします」
先程と同じように、話すと
『ああ、構わねぇよ。年増にゃ興味ない』
あっさり返事を返して来る。
稔は携帯を切り、再びどこかにダイヤルすると
「あ、竹内さんですか? 柳井です。森下梓を僕の専属にしようと思うんですが、良いですね」
理事長の竹内に連絡を入れた。
『森下梓? ああ、金田用の奴だね…、構わんよ好きにしなさい。用件はそれだけかね? 切るよ』
竹内はそう告げると、さっさと電話を切る。
稔は梓に向き直り
「これでOKです。梓は、完全に僕の管理に入ります」
右手の親指と人差し指で円を作り、梓に知らせた。
こうして驚くほど呆気ない、やり取りで梓の専属奴隷化は決まる。
呆然と稔のやり取りを見詰めていた梓は、稔の言葉を聞き、それを反芻してやっと理解し、膝からカクンと力が抜け、リビングの床に座り込んだ。
(ほ、本当…本当に私、稔様の奴隷に成れたの…。これは、夢? 夢なら醒めないで…。こんな夢なら、私一生目が醒めなくても構わない…)
梓は恐る恐る自分の頬に、手を伸ばしキュッと抓ると、その痛みにこれが現実と知り、自分の身体を抱きしめて、震え始める。
梓の瞳からは、ポロポロと歓喜の涙が溢れ、こぼれ落ちた涙は、太股を濡らしていた。
稔は梓に近付くと、スッと手を差し伸べ
「梓…これから、僕の持ち物である証を、梓に付けようと思うんですが、身体の方は辛くない?」
静かに落ち着いた声で、梓に語りかける。
梓は稔の言葉で、弾かれたように顔を上げ
「私の身体など、お気遣いしないで下さい。ただ、一言ご命令を頂ければ、梓は何でも致します」
涙に濡れた顔を、喜色に染め稔に返事を返した。
稔は梓の返事にニッコリ笑い
「来い」
一言だけ、梓に命じる。
梓は稔の命令に、操られるように立ち上がり、稔の差し出した手をソッと捧げ持った。
美香は、完全に主人として振る舞う稔を見詰め
(だめ、私もう何が有っても…例え地獄に堕ちても構わない…。この方に仕える気持ちを、押さえられない…、あの声で、命令され傅きたい…。それが叶わないなら…稔様…私を殺して下さい…)
固く深く、思いを募らせて行く。
稔が梓の手を引き、リビングの真ん中に進み掛けると、稔の携帯が鳴り始める。
稔は携帯を取りだし、電話に出ると
「どうしたんです狂? 話は終わったんじゃないんですか?」
稔が相手の名前を呼び、問い掛けた。
『おめぇが勝手に電話切ったんだろ! こっちの用件は、終わってねぇよ! 全く、勝手な奴だぜ…おい、今日の店の予約リストに、金田の名前があるぜ…どうすんだ? 顔合わせに使うか?』
狂の言葉に稔は考え込み
「そうですね、頃合いかも知れません…一度コンタクトを取る必要は、感じていました。良い機会です、自然な接触になるよう取り計らって下さい」
返事を返した。
『へい、毎度どうも。何人にするんだ?』
狂は軽い口調で稔に聞き返すと、稔は一同を見詰めて
「5人にして下さい」
狂に答える。
『じゃあ、予約は入れておくぜ、時間は8時からだ。んじゃな…』
狂は用件を伝えると、携帯を切った。
稔は携帯の時計に目を走らせ、現在時刻を確認する。
(5時半。後2時間半ですか…おっと、これは急がなければ、いけませんね…)
稔は携帯を閉じると、イソイソと荷物の置き場所に移動した。
稔は荷物の置き場所から戻ってくると、2つの黒い鞄と1つの黒い箱を持って、戻ってくる。
梓の前まで来ると、稔はしゃがみ込んで、黒い箱を開け梓に差し出した。
梓が箱の中身を覗き込むと、そこには理解できる物が3つと、良く分からないものが1つ。
稔は箱の中から1つ取りだし、梓の乳房にあてがった。
「うん、肌が白いからよく似合うよ」
ニッコリ微笑んで、梓に告げる。
稔が梓の乳房にあてがった物を、そのまま梓の掌に乗せた。
梓はそれを、マジマジと見詰める。
梓の掌に載った物は、円形をした10ゲージ程のニップル用のジュエリーピアスだった。
ピアスの素材はシルバーで、直径5センチほどの円は、大輪のバラを模した繊細な彫金が施され、ダイヤやルビーが散りばめられている。
そして、何より梓を喜ばせたのは、下部にぶら下がっている、プレートに[MINORU]と名前が彫られていた事だった。
プレートは緩いアールが付けられ、梓の乳房にフィットし、洋服の上からでは、その存在が目立たないよう、工夫がされている。
稔はもう片方を取り出し、梓に見せると
「こっちのプレートには、梓の名前を彫って貰う…、庵の自信作だよ。気に入った?」
もう片方のピアスを見せて、名前の無いプレートを指さし、梓に問い掛けた。
梓は口を押さえて泪し、何も答えることが出来ないまま、何度も頷く。
「僕は、名前には拘りを持っている。何せ、小さい頃僕の呼び方は、[1604]だったからね…」
稔は、ピアスを見詰めて、無表情で語り、1つの黒い鞄と合わせて庵に手渡した。
庵は、頷きながら箱を受け取ると、テーブルに進み箱を空ける。
庵が受け取った箱の中には、ハンドグラインダーが入っており、電源を繋げると名前を彫り始めた。
稔は梓を見詰め、床に横たえると、優しく髪を撫で
「恐いか?」
静かに低い穏やかな声で、問い掛ける。
梓はフルフルと、頭を左右に振り
「嬉しいです」
短く答えを返した。
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