夢魔
MIN:作
■ 第15章 奴隷3
稔と庵を見詰める女店長は、頬を赤らめ呆然と見とれている。
2人の女性スタッフに至っては、モジモジと股を摺り合わせていた。
それ程、稔と庵の正装は、迫力と色香を漂わせている。
稔は優雅な身ごなしで梓と美香の間にスッと入って行くと、両肘を軽く曲げて2人をエスコートし、庵はユッタリと沙希の隣に移動してエスコートする。
その立ち居振る舞いは、決して付け焼き刃的な物でなく、明らかに慣れている者の所作だった。
梓達3人は改めて、自分達の主人の奥の深さを思い知る。
(もう、この方達をただの高校生と思うのは止めよう…私がこれまで知り合った、どんな男性より雄々しく優雅で奥深い…最高の男性…)
梓は頬を染めフルフルと震える瞼の奥で、情欲に濡れた瞳を稔に向けた。
美香は稔の腕に、手を添えて夢見心地のような顔で、稔を見詰めフワフワと雲の上を歩くような感覚に浸っている。
沙希はニコニコと無邪気な笑顔を向け、庵の腕に大きな乳房を押しつけて、庵を困らせた。
5人はそろって、エレベーターに乗り、地下の駐車場に降りて行く。
地下駐車場に下りた5人の目の前には、リムジンが止まっており、運転手が扉を開けて待っていた。
梓が驚きの表情を浮かべ、稔の顔を見つめ直すと、稔は微笑んで頷く。
そのまま5人はリムジンに乗り込み、運転手が扉を閉めると、滑るように走り出した。
梓は稔の横で、この車の行き先を既に稔の横で推測していた。
(こんな服を着て出向く所なんて、この町にはあそこしかない…。でも、予約は2ヶ月以上待たなければ、入れない筈…)
梓は高台の上にある、この町には不釣り合いな建物を思い出しながら、窓の外に目を向ける。
リムジンは夜のバイパスを、梓の想像する方に走って行く。
やがて、リムジンは高台に有る一軒の重厚な造りのレストランに近づき、車止めに滑り込んだ。
黒いスーツのような制服を着たドアマンが、リムジンの扉を開けると
「柳井様で宜しいでしょうか?」
丁寧に頭を下げて、問い掛けてくる。
稔が返事を返すと、身体をずらして
「お待ち申し上げておりました」
再度頭を下げて、挨拶した。
5人がリムジンを降りると、ドアマンが扉を開けて招き入れる。
中に入った、美香と沙希はその造りに圧倒された。
全体を豪華なロココ調で統一された、店内には控えめなピアノの音が響き、それに絡みつくようなバイオリンの音が流れる。
広々としたフロアーに、点在する20席ほどのテーブルは、1つを残して全て埋まっていた。
そのテーブルは客席の最も中央に有り、一際大きな物だった。
稔達はスタッフに案内されて、そのテーブルに着くとギャルソンがスッと近付き
「本日お世話をさせて頂きます、大和田と申します」
深々と頭を下げる。
「大和田さん今晩は、僕にはいつものペースでお願いしますね」
稔がにこやかに話し掛けると、大和田は微笑み返しながら
「はい、心得ております」
頭を下げて、メニューの説明に入った。
大和田が説明を終え
「柳井様今日は、ワインの方は如何致しましょうか? 宜しければこちらでご用意させて頂きますが」
稔に問い掛ける。
「ええ、いつものようにお任せします。大和田さんが選ぶワインは、いつも料理に合いますからね」
稔がにこやかに答えると、美香と沙希の顔が驚きに染まる。
そんな2人に視線を向けて
「美香さんと沙希ちゃんも飲んでみませんか? 余り量を採らなければ、大した事は有りません。お母様も今日は大目に見て下さいね」
稔が3人に話し掛け、ウインクした。
美香と沙希は稔の仕草にドギマギと俯いたが、梓だけは稔の意図を読み取り、小さく頷き緊張の色を走らせる。
大和田が頭を下げて、テーブルを離れると梓は、それとなく辺りを見渡し、稔がこの店を選んだ理由に気付いた。
客席の中に、見覚えのある薄い頭を見つけた時、梓は思わず目を伏せる。
奥まった席に女性と2人で食事する、でっぷりと太った後ろ姿を見つけ、梓はこの後の展開も理解した。
(病院長と会う事が、目的だったのですね。しかも、偶然を装って…。確かに、こうでもしないと、病院長との接点は持てない…極端な出不精で、外に出るのはクラブ遊びの時だけと聞いたわ…)
梓は役割を整理すると、スッと頭を持ち上げ、その美貌を晒す。
そしてにこやかに、談笑を始める。
唐突に始まった話に、美香と沙希が驚いた顔をすると、稔がにこやかに答えながら、2人に目配せした。
何の事だか、解らない2人は戸惑いながらも、稔と梓の話に合わせ、たわいない会話を交わす。
次第にうち解け合った談笑の声に惹かれ、周りのテーブルの視線が止まり始めると、それは強烈な呪縛を伴い、周りの客の一度向けた視線を決して離す事は無かった。
稔達のレベルの違う美しさが、そうさせる。
タイプの違う美女3人と、それをエスコートする、美男子2人。
余りにも現実からかけ離れた光景に、周りの客の会話が止まり、食事の音が消える。
充分に周りの目線を惹き付けた稔達の食事が始まり、静かなどよめきが拡がった。
食事を始めた稔のマナーは、非の打ち所が無い程優雅だった。
ただ、その速度と量にかなりの問題がある。
庵が一般男子の平均速度で、前菜を食べている間に、稔は3人分の量を平らげていた。
健啖家の領域を遙かに超えている。
ショーと化した稔の食事に、周りの客は驚きの視線で注目し、食事や会話を放棄して見入った。
大和田達は慣れた物で、3人がかりで椀子蕎麦のように、空いた皿を片付けては、稔の前に料理を置く。
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