夢魔
MIN:作
■ 第16章 絵美6
神田は絵美の反応を見て、下卑た笑いを浮かべると、絵美にむしゃぶりつく。
その時、通りから大きな澄んだ声が、辺りに響いた。
「痴漢だー! 女の子が襲われてる! 誰かー警察を呼んで下さい!」
澄んだ声に、辺りの家々の消えていた電気が、一つ二つと灯り始め、窓ガラスを開ける音も聞こえ始める。
神田は狼狽え、[ちっ]と舌打ちすると、絵美の身体から離れ、公園の暗闇に消えていった。
声の主が、絵美に近付くと
「に、西川さん? 大丈夫? どうしたのこんな時間に…」
あどけない少年の面影を残す、美少年が現れる。
「工藤君…あ、有り難う…」
絵美は衣服を整え、目の前に現れた、純の真似をした狂に礼を言う。
「こんな暗い道、1人で歩いちゃ危ないよ…」
狂は絵美に手を差し出し、ニッコリ微笑んだ。
絵美は狂の顔を見詰め、一瞬怪訝な表情を浮かべると、差し出された手を掴む。
(あれ? この人…工藤君? 何か違う…色が変…)
絵美は助け起こされながら、怪訝に感じた表情を隠し、立ち上がった。
狂は引き起こした、絵美の胸を見て視線をそらす。
絵美の着ていたTシャツの胸グリが裂け、たわわな乳房がこぼれ落ちそうに成っていた。
慌てて隠す絵美に、狂が羽織っていたボーダーのシャツを脱ぎ、視線を背けたまま差し出す。
しかし、狂のそんな仕草は、全て計算尽くだった。
(く〜っ! たまんねぇ〜…。こいつ、こんな顔で、なんて身体してんだ…。それに、反応も実に俺好み…)
反らせた奥の顔は、ニヤニヤと緩みきっている。
絵美の羞恥に染まった頬、潤んだ瞳、はち切れんばかりの身体、全て狂の好みだった。
絵美は差し出された、シャツを手に取ると
「あ、有り難う…工藤君…」
急いでボーダーのシャツを羽織り、ボタンを留める。
しかし、狂の華奢な身体を包んでいた布は、絵美の胸を隠すには至らなかった。
乳房の真ん中当たりに来る、ボタンが[ごめんなさい]と悲鳴を上げている。
何かのショックが有れば、直ぐに弾け飛んでしまいそうに成っていた。
狂はその姿を見て、吹き出しそうになったが、必死に堪えて絵美を促す。
「こんな所にいても、いつさっきの奴が戻ってくるか解らないし、僕、西川さんの家の近くまで送るよ」
狂の申し出に、しどろもどろに成る絵美。
(え? どうしよう…あの店長の事だから、家も調べてると思うし、送ってもらうのは嬉しいけど…。でも、学校の知り合いに、家を見られたくない…。そうだ、家の側まで送ってもらえば…、そうよ、近所ならきっと大丈夫…)
絵美が決心した時、狂の携帯が鳴り
「ゴメンね、ちょっと電話に出るね」
微笑みながら、受話器を耳に当てる。
すると、狂は絵美の前で、英語で受け答えを始めた。
{ああ、俺だ…そっちの方は上手く行ってるみたいだな…、ああ、、良い感じだ…。それより、俺の位置は確認してるんだろ? 俺の、側の公園に雑魚が一匹潜んでる…ちょっと締めて、身柄を確保しててくれ…}
狂は通話を切ると、絵美に微笑みかけ
「ゴメンね、昔の知り合いだった…」
電話の相手と内容を悟られないように誤魔化す。
絵美は曖昧に頷くと、背中を丸めて俯きながら、歩き出した。
(凄いんだ…工藤君…英語ペラペラ…。当たり前か…だってアメリカに住んでたんだもの…。別の世界の人みたい…)
頬を真っ赤に染め、ドキドキと早鐘を打つ胸を押さえながら、絵美は狂の横を歩いて行く。
しかし、そんな乙女の心を、現実が暗く染める。
絵美の頭の中に、浮かぶのは神田の卑怯な行動と、その為に突きつけられた現実。
(どうしよう…これからも、あいつに付きまとわれるのかな…しつこそうな性格だもん…そんな色だったもん…。でも、実際どうしよう…、明日からバイトをまた探さなくちゃいけない…。でも、あいつを何とかしないと、また辞めさせられる…)
暗く沈んで、狂の横をとぼとぼと歩く絵美。
そんな絵美を横目で見ながら、狂は思考を巡らせる。
(全くよ…、こんな暗く成られちゃ、話しも出来ねぇ…たくっ…。どうすっかな? ここは、少し芝居掛けて見るか…)
狂は絵美に合わせるように、沈み始めた。
暫く無言で歩く2人だったが、絵美が小石に躓き自分の肩が、狂の肩に軽く触れる。
「あ、ごめんなさい…」
反射的に謝り、狂の顔を見詰めた絵美が驚きを浮かべる。
「ど、どうしたの?」
絵美は思わず狂に声を掛けた。
それ程、狂の顔は落ち込んでいたのだった。
「ううん…何でもないよ…」
狂の力無い声に、絵美は真剣な表情を向け
「何でも無い訳無いでしょ…? どうしてそんな顔してるの?」
狂に詰め寄った。
その瞬間、絵美の胸のボタンが弾け、ボリュームの有る胸が解放される。
顕わになった胸を隠そうともせず、絵美は慌てて服の状態をチェックした。
(やだ、これ、生地の方が破れてる。どうしよう…、結構高そうなシャツなのに…)
絵美は顔を青くしながら、飛んでいったボタンを探す。
「西川さん良いよ…そんな事しなくても。この暗さなら、見つからないよ」
狂はまだ、沈んだ顔で絵美に告げる。
「え…、で、でも。この服高いんでしょ?」
絵美が申し訳なさそうに、狂に言うと
「良いんです…こんな所で、女の子にそんな事をさせたくはないもん。気にしないで…」
ニッコリ微笑んで、絵美に言った。
「でも、でも…」
絵美が這い蹲って、ボタンを探そうとすると
「そんなに悪いと思ってるんなら、明日僕と付き合ってよ…」
狂が突然絵美の事を誘う。
「あ、明日?」
絵美が驚きながら、振り返ると
「って、西川さんは、バイトがあるから、無理だもんね。知ってるよ」
悪戯っぽく笑って、スッと手を差し出す。
絵美は真っ赤に頬を染めながら
「明日…バイト休みで…暇よ…」
小声で狂に答える。
絵美の意外な答えに、狂の動きが固まった。
■つづき
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