夢魔
MIN:作
■ 第20章 恋慕18
絵美は独り言を呟きながら、突然頭を捻り始め、狂に向き直り
「質問!」
真剣な表情で問い掛けて来た。
狂は絵美の真剣な表情を真顔で受け止め、無言で頷く。
「純君と狂君って、同一人物で別人格何でしょ? これって、二股に成るの? もしかして浮気?」
絵美は真剣な表情で、狂に質問する。
狂は絵美の質問を聞いて、口がユックリ開いてゆく。
そうして、そのまま首を傾けて
「はぁ〜っ?」
間抜けな問い返しの声を上げた。
絵美は狂の目の前でパタパタと両手をバタつかせ
「だ〜か〜ら〜。身体は一つでも、人格は2つでしょ? 同時に付き合ったら、二股に成るのかって聞いてるの」
狂に再び同じ質問をする。
「い、いやこの場合どうなんだ…考えた事もねぇ…。って、お前! 俺達と付き合うつもりなのか?」
狂がその言葉の裏に隠された、絵美の気持ちに気付く。
絵美はキョトンとした顔で、コクリと頷きながら
「うん、そうだよ? って、私達付き合ってるんでしょ? どうしてそんな事聞くの?」
狂に質問する。
狂は呆気に取られた。
自分達の中では、最大のトラウマ、最大の秘密が、余りにも簡単に受け入れられた事が、信じられなかった。
(おい…普通ここは、悲鳴を上げて立ち去るとか、侮蔑を投げつけるとか、騙したと怒鳴り散らすだろ…。有りかよこんな反応…。参った…参りました…)
狂は自分の頭の中で、考えていたリアクション全てを裏切られ、降参した。
すると、堪らなく可笑しくなってきた。
次々に笑いが込み上げ、大声で笑い始める。
絵美は突然笑い始めた狂に驚き、固まっていたが、釣られてクスクスと笑い始める。
暫く笑い合った狂が、涙を拭いながら
「ちょっと待ってろ、今純に変わる…今の話し、全部こいつも聞いてたから、こいつにさっきの質問してみな。答える筈だから」
絵美に告げ、目を閉じると狂の顔から、純の表情に変わった。
目を開けた純は、オドオドと落ち着かない様子で、絵美から視線を外しモジモジとしている。
「へ〜っ…普通はそうやって変わるんだ…。さっきのは、ホラー映画みたいで、何かおっかなかったけど、今のは変身みたいで、何か格好いいね…」
絵美はマジマジと純を見詰め、呟いた。
純はその絵美の言葉を聞いて、驚きを隠せず
「か、格好いい?」
絵美の顔を正面から見詰め、問い返した。
「うん、そうよ。何かサスペンスの主人公が、推理とかする時キラーンて、雰囲気返るでしょ? あれみたい…」
絵美は純に屈託無く笑いかけ、自分の感想を告げた。
純は突然絵美の両肩を捕まえ
「本当? 気持ち悪いとか、化け物とか、思わない?」
真剣な表情で、ガクガクと絵美の肩を振りながら、問い掛ける。
「痛い、痛い、それに近い…顔近いって! キスしちゃうぞ〜」
絵美は苦痛を訴え、純を離れさせようと冗談めかして言った。
だが、絵美の思惑は外れる。
純はいきなり、絵美の唇に自分の唇を重ねた。
突然の口吻に目を白黒させる絵美。
絵美は純が唇を離すと、真っ赤な顔をして俯く。
「キスでも何でもして良い。有り難う…絵美ちゃん、有り難う」
純は絵美に感謝しながら、絵美の身体を泣きながら抱きしめた。
純は嬉しかった。
堪らなく嬉しかったのだ。
初めて、受け入れられた気がした。
稔や庵は別として、純は初めて望んだ相手に秘密を知られて、受け入れられたのだった。
号泣する純の腕の中で、身体を強張らせていた絵美は、その純の心を感じたのか、ソッと背中に腕を回し、純を抱きしめた。
(純君…辛かったのね…寂しかったのね…。私は大丈夫…だって、純君も狂君も…いい人だって解るモン…えへへ…)
絵美は純を抱きしめながら、自分も嬉しくて堪らなくなっていた。
それは、初めて好きになった2人の異性が、同時に自分を好きになっていた事を知ったからだ。
絵美と純の甘い抱擁は、純が落ち着くまで続いた。
落ち着いた純は、絵美から身体を離すと
「さっきの話しだけど、僕は成らないと思うし、成立しないでしょ? それにお互い納得してたら、それで良いんじゃないかな?」
絵美に向かって、突然話し始める。
絵美は一瞬何を言われてるか、解らなかったがそれが、二股云々の純の答えだと気付き
「そっか…じゃぁ、純君はクリアーね。狂君はどう思ってるのかな?」
絵美がそう呟くと
「狂兄ちゃんは、多分大丈夫だと思う。相手が僕だからね、これが他の人だったら、凄い事になってると思うけど…」
純が絵美に答えた。
「凄い事って、なに? どう成るの?」
絵美が興味本位で、問い掛けてくると
「多分、無茶苦茶になる…。凄く嫉妬深くて、独占欲が強いから…」
そこまで言った時、突然純の右手が挙がり、自分の顔を殴った。
余りに突然起きた出来事に、絵美の目が驚きで凍り付く。
「痛たた…ゴメン…言い過ぎた…。もう言わないよ…うん…。ビックリした絵美ちゃん? 今の狂兄ちゃん…。気を抜いてると、コントロールを取られる時があるんだ…」
純は俯きがちに小声で謝罪を呟くと、絵美に笑いかけながら、殴った頬を撫でる。
「そんな事も出来るの…凄いのね…。何か飽きないわ…」
絵美は驚きながら呟いた。
絵美はもう完全に、純と狂に惹き付けられていた。
この変わった、兄弟(?)に興味津々だった。
■つづき
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