夢魔
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■ 第28章 暗雲48

 始めの30分はそれなりに穏やかに進み、脳波は安定して開花していった。
 最初の設定で極致に至らないように、補填していたためだったが、1人の生徒の値が一向に上昇しなかった。
 狂はその生徒の3Dグラフを表示し、データーを広げる。
(中山悦子…。この女…、これでサディストか…)
 狂が広げたデーターには、悦子の上半身の写真とボディーサイズ、性格、趣味、所見が映し出されていた。
(サイズが145−41、68−55−70って…小学生か…。それに、性格が内気、趣味は昆虫標本って…おかしくねぇか…? 美術部に所属してるのか。稔の所見は、いつも1人で過ごし、クラスでも空気のようにひっそりとしている。他のクラスの女子数名に虐めを受けている…)
 狂はセミロングの髪に、厚ぼったい眼鏡を掛け、俯きがちに写真に写り、どこかくすんだような印象すら与える、1年先輩の女子の写真とデーターを見て驚く。

 狂は気を取り直して、少しずつ補填係数を上げて行くと、悦子の脳波がユルユルと影響を受け始め、数値が上昇する。
 狂がユックリと慎重に数値を補正していると、突然携帯電話が鳴り出した。
 狂は慌てながら、携帯電話のサブディスプレイを確認すると、伸也からの電話だった。
 狂は舌打ちしながら、携帯を開き通話を始める。
「あ、どうしたの、伸也君…」
 狂が純の真似をして、伸也に問い掛けた。

 伸也は狂の存在を知ら無かったが、稔の仲間で居る事から、純もサディストだと知っている。
『おい、いい加減本性現せよ…、あいつ等のツレって事は、お前もサドだろ? 俺は知ってんだから、猫被んなって』
 伸也は、上機嫌で狂に話し掛けた。
(こいつ、何のつもりだ? 俺に株を教えろとか…電話で言ってきたけど…。愛理に何か吹き込まれたか…)
 狂は、秘密カジノで別れ、伸也に付いて行った女の顔を思い出しながら、苦虫を噛み潰す。

 狂はマウスを操作しながら、キーボードを叩き
「それもそうだな、んじゃ、普通に喋るか。んで、何の用だ? 約束は夕方だった筈だぜ」
 口調を戻して、伸也に話し掛ける。
『いや、暇だったからよ、飯でも食いながら株の話を聞こうかと思って、電話したんだ。お前ぇにゃ、この間たんまりと儲けさして貰ったからな…。この間の女も呼んで、飯喰わねぇか?』
 伸也が、狂に問い掛けた。

 狂は内心舌打ちをして、伸也の意図を理解する。
(ちっ、こいつ愛理が目当てかよ…。俺は女衒じゃねぇぞ、全くよー…)
 その時、悦子のPCに絵美の送った画像が過ぎり、悦子の反応がピクリと動く。
 狂はその反応を見落とし、音圧を上げる操作をすると、悦子の脳波計が大きく跳ね上がる。
 画面全体に、[注意]の文字が赤く点滅して、ディスプレーに映る悦子の身体が、小刻みに痙攣していた。
(やばい! ミスっちまった!)
 狂は咄嗟に脳波を安定させる操作をするが、一向に安定しない。

 電話を掛けているため、片手での操作となり、入力が追いつかなかった。
 狂は煩わしい、伸也の電話に
「今は俺も無理だし、この間の女も、この時間は出て来れねぇ筈だ…。夕方呼んどいてやるよ」
 慌てながらも、伸也との関係を保つため、女を呼んでやる事を告げる。
『お、マジか? んじゃ、頼んだぜ。あいつ、あれだけ可愛がって遣ったのに、携番教えやがらねぇんだ』
 伸也はぼやくように、狂に告げると通話を切った。
 狂は通話が終わると、直ぐに両手を使って操作を始めるが、もう遅かった。

 悦子は脳内を極度に揺らされ、失神していた。
 悦子の脳波は、意識が無くなった今でも、レベルを振り切った状態で、ビクビクと小刻みに振動している。
「やっべぇ〜! 連れ出さなきゃ不味いぞ!」
 狂はPC教室内に、眠らせるための音波を充満させ、タイマーをセットしてPC教室に向かう。
 手近にいた奴隷教師を呼び止め、中を覗いて全員が眠っているのを確認し、音波が止まっているのを聞き分け、PC教室内に入り悦子を連れ出した。

 悦子はそのまま医務室に運ばれ眠らせると、奴隷教師に看病させて、旧生徒会室に戻るとそこには稔が到着していた。
「どうしたんですか? まだ、教育の途中の筈ですが」
 稔が狂に問い掛けると、狂は事情を説明する。
 狂の説明を聞き、稔が教育を再開しながら、悦子のデーターを調べた。

 稔が悦子のデーターを分析しながら
「これは、不味いですね…。彼女は、いきなり目覚めてしまいました…、ここ迄、強引に目覚めてしまうと…どう成るか、僕にも判断付きかねますね…」
 真剣な表情で、呟いた。
「おい、おい…、脅かすなよ。確かに、俺のミスだがお前にも責任は有るんだぜ」
 狂は稔を見詰めながら、責任を回避しようとする。

 稔はディスプレーから視線を外し、狂を見詰めると
「責任の所在云々は、関係有りません。これは、希有なテストケースと言う事で、ここは納得しましょう。ただ、彼女は今後、注意深く見守る必要が有りますね…」
 実験者の顔で狂に頷いた。
 狂も顔を引き締め、頷くと自分の席に着き、操作を開始する。
 2人が揃ったため、この後は何事もなく教育は進み、3年A組の2回目の教育を終了した。
 狂が保健室の監視カメラの映像をディスプレーに映すと、悦子はまだ昏々と眠ったままだった。

 恐怖のサディストはあどけない寝顔で、身動ぎもせず眠っている。
 その脳内では、目まぐるしく意志が動き、自我が形を変えていく。
 抑圧された願望が、暴れながら理性の鎖を引きちぎり、その凶悪性を解放しようとする。
 悦子の歪んだ性癖がもたらす世界は、その異様さから奴隷達を震え上がらせる。
 この幼児体型の3年生がこの後、学校内の生徒全てに恐れられる存在に成るとは、狂はこの時夢にも思っていなかった。

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