夢魔
MIN:作
■ 第29章 暗転16
光子は俯きながら
「は…い…、済みませんでした…。これからは、源さんとお呼びします…」
怒られた子供のように、項垂れ謝罪する。
真は光子が謝罪すると、大きく頷き
「私は黒澤先生と契約し、ここにいる24人の方を教育する事を了承しました。ですから、この方達の教育を終えるまで、他の方の依頼は受ける事が出来ません…。どうか解って下さい…」
光子に困ったような微笑みを向けて、事情を説明する。
真の話を聞いて、光子の表情が変わり、唇を尖らせて顔を上げ
「源さんの意地悪…。だって、一生懸命したら、また教育して下さるって言ったのに〜…」
身体をモジモジと左右に振りながら、ブツブツと抗議した。
「済みません。確かにそう言いましたが、今は黒澤先生と契約を終えてしまった物で、それを反故にする訳には参りませんから…」
真はボリボリと頭を掻きながら、困り果てた表情で光子を説得する。
「もう、良いです! それなら、もう良いです! 私にも考えが有りますから…帰ります…」
光子は項垂れて、クルリと身を翻し、自分の奴隷教師を連れて、剣道場を後にした。
光子が去った後、皆がポカンと剣道場の扉を見詰めていると
「何じゃあいつ? 俺あいつのあんな姿、始めて見た…」
山源がボツリと呟くと
「俺もだ…。あんながさつな女が、源さんの前では女に成るんだな…。全く、凄いモンだ…」
山孝も山源の意見に賛同しながら、真の影響力の凄さを痛感する。
「気が付きましたか…。それは、もう既に私達のグループにも現れています。気を引き締めていかないと、根こそぎ忠誠心を持って行かれますよ…。源さんは、私達調教教師に取って[諸刃の刃]です…」
黒澤は山孝と山源に小声で注意を促すと、2人は真剣な表情で頷いた。
光子の登場で一旦道場内の緊張が切れたため、真は休憩を取る事にした。
「1時間程時間を空けましょう、私も朝から何も食べていませんし、少しお腹が空きました」
真がにこやかに進言すると、黒澤は時計を見詰め
「おお、もうこんな時間ですか…。今日は朝から内容の濃い日だったから、すっかり時間を忘れてしまいました。じゃぁ、ここで昼食にしましょう」
驚くと真の意見に賛同し、皆に指示を飛ばした。
時計の針は3時を少し過ぎており、黒澤グループは遅めの昼食を始める。
奴隷教師達の数名がイソイソと洋服を着ると、剣道場を飛び出して行く。
真も洋服を着込み、剣道場を後にしようとしたが
「源さん、お食事は普段どうされて居るんですか?」
黒澤が真に問い掛けると
「ええ、今までは作って貰っていましたが、事情が有りまして…。これからは、コンビニで済ませようかと思っています…」
真は頭を掻きながら、寂しそうに笑い答えた。
真は今まで、弥生の手料理を食べていたのだが、伸一郎に弥生を奪われたため、それも食べられなくなった。
黒澤はそんな真に
「それはいけません。これから、過酷な教育をされる源さんには、体力と健康を維持して頂かなくては…、どうです? これから半月のお食事の世話は、私達に任せて頂けませんか?」
今後の食事の世話を申し出ると、真は顔を綻ばし
「え、良いんですか? そうして頂けると、私も助かります。本当の所、コンビニ弁当だと、添加物の関係で[気]が濁るんで、どうしようか悩んでたんです」
黒澤の申し出を喜んで受け入れる。
黒澤が真と話していると、その間山孝と山源が指示を飛ばし、剣道場の片づけが始められていた。
山孝と山源が中心と成って、剣道場から要らない物が、次々と判別され片隅に追いやられる。
剣道場の真ん中に卓球台が置かれ、その脇に様々なベンチや椅子が配置されて行く。
物をどけ埃が溜まっていた所に、掃除機を掛けモップで磨き綺麗にすると、出て行っていた奴隷教師達が、手に荷物を持って戻ってくる。
卓球台の上に、持って来た荷物を置き、包みを開くと、パック詰めされた様々な料理が現れた。
その量は圧倒的で、この場に居る30人の胃袋を充分に満たす量が有る。
黒澤達が席に座ると、その横に1人ずつ奴隷教師が立ち、残った奴隷教師達は、食卓の周りをぐるりと取り囲んで正座して待機した。
黒澤達が食べ物を指定すると、それを横に立った奴隷教師が、皿に取り分け目の前に差し出す。
黒澤はそれを二口三口食べると、次の食料を指定する。
横に立った奴隷教師は、新しい皿を取り出し、料理を取り分け黒澤の前に差し出し、食べ残していた先程の皿を床の上に置いた。
すると、後ろで控えていた、1人の奴隷教師が皿の前に進み出て、四つん這いのまま食べ始め、食べ終わった皿を綺麗に舐め上げる。
横に立った奴隷教師は、次の残り物皿を床に置く時、その舐め上げた皿を拾い上げテーブルの上に置いた。
真はそのシステムを理解し、黒澤達のするように倣った。
食事が進み、テーブルの上に6人分程の料理が残ると、黒澤達は手を止め、席を立つ。
黒澤達が席を立つと、後ろに控えていた奴隷教師達が立ち上がり、片づけを始め出す。
片づけが始まると、横に立った奴隷教師は、後ろに下がり一塊で正座する。
残った料理を1つの大きな皿に、全て空けそれを床に置くと、世話をしていた奴隷教師が顔を突き合わせ、食事を始めた。
整然と進む奴隷教師達の動きに、これが日常化している事を真が理解していると
「ウチは、大体こんな感じで、食事を摂らせています。グループで調教をしていますから、服従が偏らないように、奴隷教師達はローテーションを組んで、私達の世話をしに来ます」
黒澤が真に笑いながら、話し掛ける。
真は黒澤に視線を向け
「ええ、稔君も同じように食事をさせていましたね…。やはり、主従関係をハッキリさせるためなんですか?」
問い掛けると、黒澤は頷きながら
「私は、余り気にして居なかったんですが、大貫先生が厳しくて…」
笑顔を苦笑いに変えて、真に説明した。
真は微笑みで、黒澤に答えると
「済みません。私は、食後の腹ごなしに、少し瞑想をします。30分程経ったら、最初の方から教育を始めようと思いますので、中に入ってきて下さい」
洋服に手を掛けながら、黒澤に告げる。
黒澤は、大きく頷くと
「解りました。最初は恵美で見学者は私達5人が入ります」
表情を引き締め、真に告げた。
真は無言で頷いて、全裸に成り部室内に入っていった。
■つづき
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