夢魔
MIN:作
■ 第31章 農場27
少女達は、いつも不思議そうに見ていた。
最初は家畜生徒達が散歩をしている時に、見掛けたのが始まりだった。
それから、毎朝そちらを見ると、必ずその光景を見掛ける。
確かに不自然では無いが、考えてみれば変なので有る。
その時間には必ず、そこに誰かが立っているのは、不自然過ぎた。
体育館の1階には、倉庫と各武道系クラブの部室があるだけで、他には何も無い。
合気道部、柔道部、そして今は廃部に成って居る剣道部の部室。
そんな場所に、毎朝男性教員が必ず1人立っているのだ。
それは、まるで何かを監視しているように、何をするでも無く立っている。
女生徒達は廊下の窓から、その光景を見て
「ねぇ、今日は山孝先生よ…。どう考えてもおかしいでしょ…。だって、あの先生は体育教官室のドンなのよ…、直ぐ上の教官室で、ソファーに座っているのが普通じゃない? なのに、何であそこに立ってんの? 生徒達の立ち入りも一切禁止に成ってるし、絶対何か有るわよ…」
ヒソヒソと話し合う。
「うん…、怪しいのは解るけど…。でも、そんなの気にする事無いって…。私、何か悪い予感するんだよね…この件に首突っ込むの…」
1人の少女が引き痙った笑顔で、怪しむ少女に告げると
「うん…、私も同じ気がしてる…。だって、山孝先生が立ってるんだよ…。そうしたら、それ以上の人が、奥に居るって事でしょ…。それ以上って言ったら…黒澤先生か…教頭とかよ…やばい気がするなぁ〜…」
もう1人の少女もそれに同意した。
最初の1人は2人に言われて、唇を尖らせ反論しようとした時、それを見てしまった。
体育館の1階の奥から真が現れ、それに対して山孝が頭を下げ、少し遅れて5人の女教師が後を追うように、1階の奥から現れ、離れて行く真に深々と頭を下げて、見送ったのだ。
「ね、ね、ねぇ! 貴女達、見た! 今の…」
最初の少女が、目を剥いて2人に問いかけると
「う、うん…見た…」
「ね、ねぇ…あれってどう言う事…」
2人の少女もその光景を目にし、驚きながら3人で顔を突き合わせる。
3人は顔を突き合わせ、答えを出せないで居ると
「貴女達! こんな所で何をしてるの?」
凛とした声が、少女達に掛けられる。
「あ、は、はい。申し訳御座いません」
3人はその声に飛び跳ね、姿勢を正してお辞儀した。
その声は、少女達を緊張させひれ伏させるのに、充分な迫力と圧力を兼ね備えている。
白いブラウスに濃紺のタイトスカート、ピンと伸びた背中に長い髪の毛をアップに固め、黒縁の眼鏡の奥から放たれる、微塵の隙もない視線がその女教師の特徴だった。
大貫は少女達に向かって、鋭い視線で問い掛け、窓の外に視線を向ける。
スッと一瞥を投げ、そこから見える景色を確認すると、一瞬険しい表情を作り
「貴女達が、彷徨く時間は過ぎているわ…。風紀委員に見つかれば、即、委員会室に連れて行かれるわよ」
少女達に向かって、凛とした声で告げる。
大貫の言葉の意味を知った少女達は、見逃してくれる事を理解し
「あっ、はい! 直ぐに教室に戻ります」
ペコリと頭を下げて、教室に向かって走っていった。
大貫はその少女達の背中を見送りながら、携帯電話を取りだし、2年B組の顔写真を調べ、少女達の名前を確認する。
確認を終えると、直ぐに携帯電話でコールし黒澤に繋いだ。
「もしもし、黒澤様。今、生徒が第1体育館を見ておりました。興味を持ったようですが、如何致しましょうか…」
『ふ〜ん…。見られたか…、体育館の使用は今後は少し時間をずらそう…。その生徒達の名前は全員に知らせて、体育館には近づけさせるな、これ以上踏み入ってくれば、何らかの対処を行おう…』
大貫は報告をし対策を受け、直ぐに指示に従い黒澤派の教師達にメールを送った。
少女達は息を切らせて教室に入り、教室内の一角に集まって話し始める。
「ねぇ、あれどう言う事だと思う? あの人って、夏休み前は社会科の教師だったのに、こんな風に成ってから用務員に成ったのよね…。変だと思わない?」
積極的な少女が口火を切ると
「うん…、変だけど…。もう、止めない…、私あのタイミングで、大貫先生が出て来たし、本当に心臓が止まるかと思ったモン…。あのタイミングは、神様が[もう、止めなさい]って、言ってるような気がする…」
消極的な少女が、嫌そうに答えた。
「でも、確かに変よね…[降格した教師]に[昇格した教師]が頭を下げてるなんて…。まるで[影の首領]みたいな感じ…。この学校の秘密と関わりが有るのかも…」
少女達はヒソヒソと話し合った。
その少女達の囁きを教室の隅で、純が聞いていた。
少女達の首輪に付いた盗聴器は、学校内に居る時は通常オフに成って居るが、メインフレームをコントロールする狂と知識を共有する純は、有る程度の操作が出来、モバイルPCで盗聴器のスイッチを入れ聞いていたのだ。
(あの3人、昨日は僕に迫って今日は、何の相談なんだろうと思ったけど…。今度のは、洒落にならないよ…。真さんと剣道場に興味を持つなんて、自殺行為だよ…。何とかしなきゃ…)
純は溜息を吐いて、ウンザリした表情で少女達を見守る。
授業が終わると、少女達は一目散に教室を出て、真を捜そうとする。
そんな少女達の目の前に、純が現れ
「おい、お前等に言っておく…。[好奇心は猫をも殺す]この言葉の意味、良〜く考えろよ…」
狂の口調を真似ながら、3人の少女に釘を刺す。
3人の少女を引き留め釘を刺した純は、視線を感じそちらを向くと、教室の扉の影から、絵美がしっかりとその現場を確認しており、純と視線が合うとスッと教室内に入って行った。
純はその行動に顔を青くさせ、慌てて少女達の前から教室に戻る。
3人の少女は、慌ただしく消えて行った、純の後ろ姿を見詰め、キョトンとした顔で
「ねぇ…工藤様、猫がどうのって言ってたけど…どう言う意味?」
「さぁ…、猫は好奇心が強いって事かしら…」
「何かの、ことわざだわ…。聞いた事がある気がする…」
誰も、純の真意を理解せず、真を探しに行った。
校舎の裏庭で、花壇の手入れをする真を見つけた3人は、校舎の影から真を盗み見た。
すると、反対側の影から1人の女教師が真を見つけ走り寄り、深々と頭を下げるとなにやら話し始める。
暫く話していた女教師は、いきなり真の胸に飛び込み、泣き始め真はそれを優しく、慰めていた。
その姿は、どう見ても好意有る男性に縋り付き、慰めて貰っている姿にしか見えない。
「えっ、え〜〜〜っ…。あの先生…、あんなのが、好みなの?。あれ、パグよ? 身体もプニョプニョだし…」
いつも積極的な少女が驚きながら呟く。
■つづき
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